DNA複製とは?定義・仕組み・半保存的複製と原核/真核の違い
DNA複製の基本から半保存的複製、原核と真核の違いまで図解でわかる!仕組みと重要酵素を簡潔解説。
DNA複製は、二本鎖のDNA分子をコピーするプロセスである。両方の鎖は、反対側の鎖を複製するための鋳型となり、新しい鎖は各鋳型鎖に対して相補的な塩基配列を持って合成される。この過程は、元の鎖と新しく合成された鎖が各二本鎖に1本ずつ含まれることから、「半保存的複製」と呼ばれることが多い(この概念はMeselson–Stahlの実験で実証された)。
このプロセスは、DNAを持つすべての生命体で起こる。原核生物と真核生物では基本的な仕組みは共通するが、複製の開始点、制御機構、速度、付随する構造(例:クロマチン)などにいくつかの顕著な違いがある。
複製の開始(イニシエーション)
細胞において、DNAの複製はゲノム上の特定の場所、すなわちオリジン(origin)から始まる。オリジンではまず特定の因子が結合してDNA二重らせんを局所的に巻き戻し、複製開始の準備を行う。
- 原核生物:通常はゲノムに1つのオリジン(例:大腸菌のoriC)があり、DnaAタンパク質などが結合してヘリカーゼを呼び込む。
- 真核生物:複数(数千〜数万)のオリジンがあり、複雑な制御(ORC:origin recognition complex、複製ライセンスの付与と抑制)が存在する。複製は細胞周期のS期に制限される。
複製フォークと主要酵素
オリジンでDNAが巻き戻されると、新しい鎖の合成は複製フォークで進行する。複製フォークでは多種類の酵素とタンパク質複合体(レプリソーム)が協調して働く。代表的な因子は次のとおりである:
- ヘリカーゼ:二本鎖DNAをほどいて一本鎖にする。
- 一本鎖結合タンパク質(SSB):一本鎖DNAを保護して再らせん化を防ぐ。
- トポイソメラーゼ:ねじれを解消してDNAの超らせん構造を緩和する。
- プライマー合成酵素(プライマーゼ):DNAポリメラーゼが伸長を始められるように短いRNAプライマーを合成する。
- DNAポリメラーゼ:新しいDNA鎖を5'→3'方向に伸長する。多くのポリメラーゼは3'→5'の校正(エキソヌクレアーゼ)活性をもち、誤り訂正を行う。
- スライディングクランプとクランプローダー:ポリメラーゼのDNAへの結合を安定化し、プロセスビティ(連続伸長能)を高める。
- DNAリガーゼ:岡崎フラグメント間の切れ目を結合して連続鎖を完成させる。
先行鎖と遅延鎖(岡崎フラグメント)
DNAポリメラーゼは鎖を伸長する方向が5'→3'に制限されるため、複製フォークでの二本の親鎖の複製様式は非対称である。複製フォークと同じ方向に連続的に合成される鎖を先行鎖(leading strand)、フォーク方向と逆向きに短い断片を合成しながら後でつなぎ合わせる鎖を遅延鎖(lagging strand)という。遅延鎖の短い断片は岡崎フラグメントと呼ばれ、最終的にDNAリガーゼにより連結される。
複製の終結と品質管理
複製が進むと、フォークは他のフォークと出会って合流するか、染色体末端や終結配列に到達して終了する。真核生物では複製後にヌクレオソームが再構築され、クロマチン構造が回復する必要がある。また、誤った塩基挿入や複製中の損傷に対しては以下のような品質管理機構が働く:
- ポリメラーゼの3'→5'校正活性による即時訂正
- ミスマッチ修復(MMR)による複製後の修正
- DNA損傷応答とチェックポイント(真核ではS期チェックポイントなど)による複製の停止と修復誘導
原核生物と真核生物の主な違い
- オリジンの数:原核は通常1つ、真核は多数。
- 染色体の形状:原核は多くが環状染色体、真核は線状染色体(真核では染色体末端の複製に関する問題が生じる)。
- クロマチンとヒストン:真核ではDNAがヒストンに巻き付いており、クロマチン再構築が複製と連動する。
- 末端複製問題とテロメア:線状染色体では末端のラギング鎖の完全な複製ができないため、テロメアとテロメラーゼが重要になる。
- 制御機構:真核は複雑な細胞周期制御(ライセンス付与と再複製防止)を持つ。原核ではDnaAなどの因子によるオリジン活性化が中心。
- 速度:一般に原核の複製速度は速い(例:大腸菌で約1000塩基/秒)に対し、真核は遅め(数十塩基/秒)だが、多数のオリジンで全ゲノムを短時間で複製する。
まとめ:なぜ重要か
DNA複製は細胞分裂と遺伝情報の正確な継承の基盤であり、その高い忠実性は生存に不可欠である。一方で複製の制御不全や修復機構の欠陥は突然変異や染色体不安定性を招き、がんや遺伝病の原因となることがある。したがって、複製の仕組みとその制御は基礎生物学だけでなく医学的にも重要な研究対象である。

DNAの複製。二重らせんがほどけ、それぞれの鎖が鋳型として機能する。塩基が一致し、新しいパートナー鎖が合成される
DNAポリメラーゼ
DNAポリメラーゼは、あらゆる形態のDNA複製を行う酵素群である。しかし、DNAポリメラーゼは、鋳型となる鎖と対になっている既存のDNA鎖を伸ばすことしかできず、新しい鎖の合成を開始することはできない。合成を開始するには、「プライマー」と呼ばれるDNAまたはRNAの短い断片を作り、鋳型となるDNA鎖と対になるようにする。
一般に、DNAポリメラーゼは極めて正確で、107 (1000万)個のヌクレオチドが追加されるごとに1つ以下のミスしか犯さない。それでも、一部のDNAポリメラーゼは「校正」能力も持っている。塩基の不一致を修正するために、鎖の末端からヌクレオチドを除去することができるのだ。

DNAの複製フォークには多くの酵素が関与している。
DNA修復
細胞内のDNAは常に損傷を受けている。細胞の核には、この損傷のほとんどすべてを修復する数多くの修復機構が備わっている。「DNA修復酵素の大規模なセットは、絶えずDNAをスキャンし、損傷したヌクレオチドを修復します」。
質問と回答
Q: DNA複製とは何ですか?
A: DNA複製とは、二本鎖DNA分子をコピーするプロセスのことです。
Q: DNA複製の際、反対側の鎖を複製するための鋳型となるものは何ですか?
A: DNA複製の際には、両方の鎖が反対側の鎖を複製するための鋳型となります。
Q: DNAの複製が「半保存的複製」と呼ばれることがあるのはなぜですか?
A: DNAの複製が「半保存的複製」と呼ばれることがあるのは、元の鎖からの新しいDNAが、元のDNAと新しく合成されたDNAの半分ずつを含んでいるからです。
Q: DNAの複製はどのような生命体で起こるのですか?
A: DNAの複製はDNAを持つすべての生命体で起こります。
Q:原核生物と真核生物ではDNA複製の制御に違いがあるのですか?
A: はい、原核生物と真核生物ではDNA複製の制御に違いがあります。
Q: DNAの複製は細胞のどこで始まるのですか?
A:細胞内では、DNA複製はゲノム内の起点と呼ばれる特定の場所から始まります。
Q: DNAポリメラーゼの他に、DNA複製の際に複製フォークでDNA合成の開始と継続を助ける酵素は何ですか?
A:DNAポリメラーゼの他にも、DNA合成の開始と継続を助ける酵素がフォークにあります。
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