ヒトマイクロバイオームとは|人体微生物叢・腸内フローラの定義と健康への影響

ヒトマイクロバイオームとは何かを分かりやすく解説。腸内フローラや皮膚・口内の微生物が健康に与える影響と最新研究を紹介。

著者: Leandro Alegsa

ヒトマイクロバイオーム(またはヒトマイクロバイオータ)とは、私たちの身体表面や内部に定着している微生物の総体を指します。具体的には、皮膚、唾液や口腔、目、や消化管のほか、呼吸器や生殖器の粘膜などに多様な微生物群が生息しています。これらには、細菌古細菌、真(カビや酵母など)、ウイルス、そして単細胞真核生物(「原生動物」)などが含まれます。これらの微生物は人間の細胞数に匹敵するかそれ以上の数が存在するとされ、個人ごとに異なる「生態系」を形成しています。

用語の違いと由来

マイクロバイオームという用語は、もともとジョシュア・レダーバーグによって提唱され、宿主である人間とともに存在する微生物群とそのゲノム、環境との相互作用を含む広い概念を指します。一方、多くの学術文献では「マイクロバイオータ」を微生物そのものの集合(=どの種がいるか)、マイクロバイオームをそれらのゲノムや機能的特徴を含むものとして区別する場合がありますが、実務上はほぼ同義に使われることが多いです。

どこにいるか・構成要素

代表的な棲息場所とそこに見られる微生物群:

  • 皮膚:皮脂や汗を好む細菌や真菌
  • 口腔:多種の口腔常在菌(歯周病や虫歯と関係する種も含む)
  • 腸内:消化や代謝に関与する多数の細菌・古細菌、ウイルス(バクテリオファージ)
  • 呼吸器・生殖器:特定の常在微生物群が存在

機能と健康への影響

ヒトマイクロバイオームは単なる共生者ではなく、宿主の生理や健康に多面的に関与します。主な機能として:

  • 消化・代謝の補助(食物の分解、短鎖脂肪酸の産生など)
  • ビタミン(ビタミンK、ビタミンB群など)や代謝物の合成
  • 免疫系の発達と調節:病原体に対する防御や免疫反応の教育
  • 病原体の侵入阻止(被覆・栄養競合・抗菌物質の産生)=コロニゼーション抵抗
  • 薬剤代謝や治療効果への影響(抗がん剤や抗生物質の代謝など)
  • 腸-脳軸を介した精神・神経機能への影響の可能性(行動、気分、ストレス反応との関連)

これらの機能は健常時には宿主と調和して働きますが、バランスが崩れる(ディスバイオーシス)と、炎症性腸疾患(IBD)、肥満、代謝症候群、アレルギー、あるいは精神神経疾患との関連が示唆されています。ただし、多くの知見は相関的であり、因果関係の解明にはまだ研究が必要です。

多様性と変化を決める要因

マイクロバイオームの組成は個人差が大きく、次のような要因で変動します:

  • 出生様式(経腟分娩か帝王切開か)や授乳の有無
  • 年齢(乳児期、成人期、老年期で特徴が異なる)
  • 食事内容(繊維多い食事は短鎖脂肪酸産生菌を増やす等)
  • 抗生物質やその他薬剤の使用
  • 生活環境(衛生状態、ペットや家族の微生物との接触)
  • 遺伝的要因や基礎疾患

研究手法と臨床応用

現代の研究では、培養できない微生物も含めて解析するために、16S rRNAシーケンス、全ゲノムメタゲノム解析、メタボロミクス(代謝物解析)などが使われます。これにより、「誰がいるか」だけでなく「何をしているか」まで評価できるようになってきました。

臨床的には、プロバイオティクス、プレバイオティクス、食事療法、そして重症例では糞便微生物移植(FMT)などが試みられています。ただし効果は個人差が大きく、安全性や長期影響については慎重な検討が必要です。

用語メモ:「フローラ」と「生物相」

「フローラ」という語は植物(flora)に由来しますが、歴史的に「腸内フローラ」といった表現が定着しています。生物学的には「生物相」はある生態系に存在する生物の総体を指します。微生物群については「microbiota(マイクロバイオータ)」が適切な用語ですが、実用上「フローラ」が広く使われることもあります。

注意点と今後の課題

多くの研究がマイクロバイオームと疾患の関連を示していますが、次の点に注意が必要です:

  • 相関関係と因果関係の区別:微生物変化が原因か結果かはケースバイケース
  • 個人差の大きさ:ある人に有効な介入が別の人に効かないことがある
  • 長期的な安全性の不確実性:特に移植や強力な介入では慎重な評価が必要

研究は急速に進んでおり、将来的には個々人のマイクロバイオームに基づく精密医療(パーソナライズド・メディシン)や、より効果的で安全な微生物介入が期待されています。

研究者たちはまた、人体に存在する微生物の中に古くから存在する単細胞生物である古細菌が含まれることを明らかにしており、中にはメタンを生成してガス(鼓腸の原因となり得る)を産生するようなメタン菌も存在します。こうした多様な微生物群の役割を総合的に理解することが、健康維持や疾病予防の新たな鍵となるでしょう。

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大腸菌 :私たちの腸内に長期的に生息する大腸菌

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質問と回答

Q:ヒトマイクロバイオームとは何ですか?


A: ヒトマイクロバイオーム(またはヒトマイクロバイオータ)とは、細菌、古細菌、真菌、単細胞真核生物など、私たちに生息する微生物の集合体のことを指します。

Q: 人間の体には、いくつの細胞がありますか?


A:人間の体には約100兆個の細胞があります。

Q:ジョシュア・レダーバーグの造語は何ですか?


A:ジョシュア・レダーバーグは「マイクロバイオーム」という言葉を作りました。

Q:「マイクロバイオーム」と「マイクロバイオータ」の違いは何ですか?


A:一般的に、「マイクロバイオーム」はある環境ニッチに生息する微生物のゲノムの集合体を指し、「マイクロバイオータ」は微生物そのものを指す。

Q:すべての微生物が人間にとって有用なのでしょうか?


A:いいえ、ほとんどの微生物は効果が知られておらず、私たちと共生しているに過ぎません。存在することが予想されるものは、正常な細菌叢のメンバーであり、異常増殖しない限りは病気を引き起こすことはない。

Q:腸内フローラとは何ですか?


A:腸内フローラとは、人間の腸や腸に存在する微生物の集団のことです。細菌、古細菌、真菌、その他の単細胞生物などが含まれます。

Q: メタン菌とは何ですか?


A: メタンガスを発生させる古細菌の一種で、鼓腸の原因となることがあります。


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