オペラ・ブッファ(Opera buffa)とは:イタリア喜劇オペラの定義・特徴・歴史・代表作
オペラ・ブッファとは?18世紀イタリア発の喜劇オペラの定義・特徴・歴史・代表作を図解と名作紹介でわかりやすく解説。
Opera buffa(オペラ ブッファ)とは、イタリア語で「コミックオペラ」を意味する言葉で、主に18世紀のイタリアで成立・発展した喜劇オペラの様式を指します。物語の扱い方や音楽・舞台表現において、当時のオペラ・セリア(「シリアス・オペラ」)とは対照的であり、娯楽性・風刺性・市民層の人物像を重視しました。オペラ・セリアが伝統的に「すべてが歌われ、台詞はありません」という形式を持っていたのに対し、オペラ・ブッファではレチタシオンを用いつつ、テンポの速いやり取り、アンサンブル、軽快なアリアやパッセージで登場人物の心情や状況を表現しました。
名称と起源
今日では「オペラ・ブッファ(オペラ・バッファ)」という名称が定着していますが、18世紀当時は「音楽のコメディア」や「ドラマ・ジョコーザ」、「オペレッタ」、「ブルレスカ」など、さまざまな呼称が用いられていました。短い喜劇的な中間劇である「インターメッツォ」や「ファルサ」から発展したものが多く、これらは本来、長い悲劇の合間に上演される軽い曲芸的な作品でしたが、次第に独立して長編化し、オペラ・ブッファへと発展していきました。例えば、ペルゴレージのLa serva padrona(ラ・セルヴァ・パドローネ)は当初は間奏曲(インターメッツォ)として作られ、のちにオペラ・ブッファへ大きな影響を与えました。
歴史的背景と地域性
オペラ・ブッファは主にナポリで発展し、やがてイタリア各地、さらにウィーンやパリなどヨーロッパ各地に広まりました。特にカーニバルの時期など祝祭日の娯楽として高い人気を得ており、市民や中産階級の観客の嗜好にあわせて社会風刺や身近な恋愛・結婚の主題が好まれました。18世紀後半には、オペラ・ブッファとオペラ・セリアの境界があいまいになり、モーツァルトの作品のように喜劇的要素と深刻な要素が混在する例も現れます(例:モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』など)。
音楽的・形式的特徴
- レチタシオンとアリアの構成:物語の進行はレチタシオンで行われ、感情表現は短くて明快なアリアや二重唱、三重唱、四重唱などのアンサンブルで示されることが多いです。18世紀のオペラ・ブッファでは、アリアは必ずしも長いダ・カーポ形式に依存せず、場面に即した短い型が多く見られます。
- アンサンブルとフィナーレ:各幕の終わりに主要登場人物全員が一緒に歌う壮大なアンサンブル(総奏)を置く習慣が発達しました。これにより、複数の人物の感情や状況が同時に動的に表現され、ドラマ性が高まります(記事中の「アンサンブル」(フランス語で「一緒に」という意味)という語も参照)。
- リズムと台詞の軽快さ:速いテンポ、短いフレーズ、パッター(早口)的な歌唱が多用され、コミカルな効果を生みます。伴奏付きレチタティーヴォ(recitativo accompagnato)や幕間のオーケストレーションも用いられました。
- オーケストレーションと序曲:序曲(シンフォニア)は独立した楽曲として発展し、作品全体の色彩を示す役割を果たしました。オーケストラは歌手の表情を支えるために活用され、音楽的なユーモアを補強しました。
登場人物と演技
オペラ・ブッファにはしばしば喜劇的な固定役割(ストックキャラクター)が登場します。これらはイタリアの伝統的なコメディ(commedia dell'arte)からの影響を受けています。よく見られる人物像には以下があります。
- 若い恋人たち(主人公) — 恋愛の駆け引きが中心
- ずる賢い召使(しばしば低声のバッソ・ブッフォ) — 機転で物語を動かす
- 尊大な貴族や取り澄ました老人(しばしばからかわれる対象) — 権威や虚栄を笑い飛ばす
- 町の人々・群衆 — 社会的な風刺の対象として描かれる
演技(演技力・身体表現)は常に重要視され、多くの場面が速いテンポでテンポラリーに進行します。台詞劇に近い自然さとタイミングのよいコミック演技が求められました。
主な作曲家・台本作家と代表作
オペラ・ブッファの発展に寄与した作曲家や劇作家(台本作家)には、多くの重要な人物がいます。代表的な作曲家とその代表作を挙げます。
- ジャン・バッティスタ・ペルゴレージ — La serva padrona(ラ・セルヴァ・パドローネ、1733、間奏曲として作曲)。
- カルロ・ゴルドーニ(台本作家) — 多数の喜劇台本を提供し、オペラ・ブッファの台本表現を整備しました(オペラ・ブッファの重要な作曲家には、カルロ・ゴルドーニ、バルダッサーレ・ガルッピなどがいます。 の文脈参照)。
- バルダッサーレ・ガルッピ — ナポリ派の作曲家としてオペラ・ブッファの発展に寄与。
- ニコロ・ピッチンニ、ドメニコ・チマローザ — 18世紀後半の代表的作曲家。チマローザのIl matrimonio segreto(1792)は高い評価を得ています。
- ジョアキーノ・ロッシーニ — 19世紀のオペラ・ブッファの最重要作曲家の一人。代表作にIl barbiere di Siviglia(1816)など。
- ジャン=バティスト・モーツァルト(ウィーンで活躍) — モーツァルトの作品群(『ドン・ジョヴァンニ』、『Le nozze di Figaro』、『Così fan tutte』など)は、喜劇的要素と深い心理描写を融合させ、オペラ・ブッファの可能性を大きく広げました。
主題と社会的役割
オペラ・ブッファは常に多くの風刺的要素を含み、登場人物は愚かさ、虚栄心、強欲、気取りなどの人間の弱点を露呈させ、しばしば支配階級をからかっていました。そのため、単なる娯楽にとどまらず市民社会の価値観や身分制度、結婚や道徳に対する批評的視点を提供する機能も持っていました。
形式の変化とその後の影響
18世紀末から19世紀にかけて、オペラ・ブッファはオペラ・セリアと要素を共有しながら変容しました。モーツァルトは喜劇主題に深い人間描写を持ち込み、ロッシーニはより技巧的で歌唱中心の「ブッファ」を完成させました。その後、19世紀のベルカント歌劇やヴェリズモへとつながる過程で、オペラ・ブッファの要素(コミカルな登場人物、アンサンブルの重要性、序曲の発展など)は継承・変容され続けました。
現代における上演と評価
現代のオペラ上演でも、オペラ・ブッファの作品は世界中のオペラハウスで人気があります。演技力と歌唱力の両方が求められるため、俳優的側面を重視した演出や、時代・文化を現代に置き換えた新演出も盛んに行われています。代表作はしばしばレパートリーとして定番化しており、観客にとって親しみやすい入門作品にもなっています。
代表作の簡単な一覧
- ジャン・バッティスタ・ペルゴレージ:La serva padrona(1733)
- ドメニコ・チマローザ:Il matrimonio segreto(1792)
- モーツァルト:Le nozze di Figaro(1786)、Don Giovanni(1787)、Così fan tutte(1790)
- ジョアキーノ・ロッシーニ:Il barbiere di Siviglia(1816) 他
- ニコロ・ピッチンニ、バルダッサーレ・ガルッピ、カルロ・ゴルドーニ(台本)など多数
オペラ・ブッファは、軽妙さと風刺、音楽的な機知と演技の即興性を兼ね備えたジャンルとして、18世紀以来の欧州歌劇の重要な一翼を担ってきました。その自由で庶民的な表現は、今日もなお多くの聴衆を魅了し続けています。
質問と回答
Q:「オペラ・ブッファ」とはどういう意味ですか?
A:オペラ・ブッファとは、「コミック・オペラ」を意味するイタリア語です。主に18世紀のイタリアの喜劇オペラに使われます。
Q:オペラ・ブッファはオペラ・セリアとどう違うのですか?
A: オペラセリアは「真面目」であるべきで、オペラブッファは「娯楽的な音楽喜劇」でした。オペラ・セリアのストーリーは悲劇であるのに対し、オペラ・ブッファのストーリーはレチタティーヴォで語られ、登場人物の気持ちや声を表現するアリアが登場する。
Q:18世紀には、これらのオペラには他にどんな呼び名があったのでしょうか?
A:18世紀には、「コメディア・イン・ムジカ」「ドラマ・ジョコーサ」「オペレッタ」「ブルレスカ」など、別の名前で呼ばれていました。
Q: これらのオペラには、話し言葉の台詞はあったのですか?
A:いいえ、オペラ・セリアと同じように、すべてが歌われ、話し言葉の台詞はありませんでした。この時代の他の国のコミックオペラとは違いますね。
Q:インテルメッツォやファルサは何を指しているのですか?
A:インテルメッツォやファルサは、悲劇音楽の合間に上演される短い喜劇音楽のことですが、時代とともに長くなり、複雑になるため、長編作品と見分けるのが難しくなってきました。ペルゴレージの「ラ・セルヴァ・パドローネ」は間奏曲の一例で、彼の死後、非常に有名になり、後のオペラブッファの作品に影響を与えました。
Q:これらの作品には、どのような性格の人物が登場することが多かったのでしょうか?
A:オペラ・ブッファは常に多くの戯画を含んでいます。登場人物は、愚かさ、虚栄心、強欲さ、気取り(賢さや重要性を装っている人)など、人間の弱さを示していました。また、社会全体の支配階級や権力者を揶揄することもよくありました。
Q:このような音楽はどこから生まれたのでしょうか?
A:オペラバフはナポリで始まり、次第にイタリアの他の地域にも広がっていきました。特にカーニバルで人気があり、オペラバフの重要な作曲家には、カルロ・ゴルドーニやバルダッサーレ・ガルッピなどがいます。
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