パウル・フォン・ヤンコ:ヤンコ鍵盤を発明したハンガリーのピアニスト兼技術者
パウル・フォン・ヤンコ:ハンガリーのピアニスト兼技術者が発明した6+6列ヤンコ鍵盤の革新と人生を詳しく紹介
パウル・フォン・ヤンコ(1856年6月2日 - 1919年3月17日)は、ハンガリーのピアニスト、エンジニアである。演奏家としての経験と技術的な知識を併せ持ち、従来の鍵盤配置に代わる新しい構造を提案したことで知られる。
ウィーンで数学と音楽を学び、H.シュミット、J.クレン、アントン・ブルックナーの弟子となった。その後、ベルリンに移り、1881年から1882年にかけて、ベルリン大学で数学を学ぶ一方、H.エルリッヒにピアノを師事した。自身の演奏経験と数学的考察を基に鍵盤改良の研究を進めた。
1882年、ヤンコは6列の鍵盤を持つ6プラス6鍵盤のヤンコ鍵盤を発明した。従来の水平に並んだ白鍵・黒鍵の配置とは異なり、複数列に分かれた鍵が格子状に配されているため、音程構造が均一化され、どの調でも同じ指使いで演奏できる点を特徴とする。
ヤンコ鍵盤の特徴と影響
- 構造の特徴:6列(段)に分かれた鍵が互いにオフセットして配置され、同一音が複数の場所に現れることで、手の移動を抑えた均一な運指が可能になる。
- 利点:一定の指使いで異なる調を演奏できるため、転調や和声進行の処理が容易になり、特にスケールやアルペジオの演奏が効率化される。また、手の届きにくい幅の広い和音を取りやすくする配慮もある。
- 課題と普及状況:従来の鍵盤と形状が大きく異なるため学習曲線があり、広範な普及には至らなかった。しかし当時はいくつかの試作機が作られ、代替鍵盤に関心を持つ音楽家や技術者の間で注目を集めた。
- 遺産:20世紀以降も代替鍵盤や鍵盤理論の研究、実験的楽器制作の題材として取り上げられ続け、現代の鍵盤設計や音楽理論の議論に影響を与えている。
ヤンコは演奏家としての実践と数学的素養を結びつけることで、鍵盤楽器の可能性を広げようとした人物であり、その発明は今日でも鍵盤設計の歴史における重要な試みの一つとみなされている。
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