プラスミドとは|定義・構造・複製・機能と抗生物質耐性の役割
プラスミドとは、染色体のDNAとは別個のDNA分子で、独立して複製(コピー)することができます。多くは二本鎖DNAで、しばしば円形をしていますが、直線状のプラスミドも存在します。プラスミドという語は1952年にアメリカの分子生物学者ジョシュア・レダーバーグによって初めて紹介されました。
プラスミドは通常、細菌の中に自然に存在しますが、真核生物の中にも見られることがあり、代表例として酵母のサッカロミセス・セレビシエに存在する2マイクロメートル環がよく知られています。大きさは小さなオリゴヌクレオチドに近いもの(1 kbp程度)から、1000 kbp(=1 Mbp)に近い大型のものまで幅広く、一般的には1〜10000キロ塩基対(kbp)の範囲が多く報告されています。1つの細胞内に存在する同一のプラスミドのコピー数(コピー数、copy number)は、その制御機構により1個から数千個まで様々です。
構造と主要要素
典型的なプラスミドは以下のような要素を持ちます。
- 起点(ori, origin of replication):複製が開始される配列。これにより宿主の複製装置が結合し、複製が行われます。
- 複製制御領域:コピー数を制御するための配列や小さなRNA、タンパク質をコードします。
- 分配(partition)システム:細胞分裂時にプラスミドを子細胞に均等に分配するための遺伝子(parA/parBなど)。特に低コピー数プラスミドで重要です。
- 移行(mobilization / conjugation)関連遺伝子:接合(コンジュゲーション)を行う際に必要なtra遺伝子群や接合繊毛の形成に関わる遺伝子。
- 選択マーカーや機能性遺伝子:抗生物質耐性遺伝子、代謝遺伝子、毒素-抗毒素(トキシン・アンチトキシン)システムなど。
複製様式(レプリケーション)
プラスミドの複製方法は主に2つに大別されます。1つは「ローリングサークル複製(rolling-circle replication)」、もう1つは「シータ(θ)型複製」です。ローリングサークルは小型プラスミドや一部の広域可塑性プラスミドで見られ、一本鎖を介して連続的に合成されます。シータ型複製は染色体複製に似た方式で、複製フォークが形成される点が特徴です。
複製の頻度やタイミングはプラスミド固有の制御因子(リプリカシオンコントロール)により調整され、これが「高コピー数プラスミド」と「低コピー数プラスミド」を生む要因になります。低コピー数のプラスミドは分配系(par)を持ち、細胞分裂時の安定性を確保します。
遺伝子の移動と伝搬(水平伝播)
プラスミドは微生物間で遺伝子を水平に伝達する主要な媒体です。移動の主要メカニズムは次の通りです。
- コンジュゲーション(接合):直接接触によるDNAの移動。コンジュゲーティブプラスミドは接合に必要なすべての遺伝子を持ち、自ら細胞間移行を行います。伝達には接合繊毛やリラクセース(nickase)などが関与します。プラスミドは他の非自己移行性(mobilizable)プラスミドを同時に伝えることもあります。
- 形質転換:環境中の遊離DNAを自然にまたは人工的に取り込む現象。形質転換可能な細菌は外来プラスミドDNAを取り込み、保持することができます。
- トランスダクション:バクテリオファージ(細菌ウイルス)によるDNAの媒介移送。ファージがプラスミド断片を誤ってパッケージすると、別の細胞にそれを運ぶことがあります。
プラスミドの機能と生態学的役割
プラスミドは宿主に多様な有利性を与えることがあり、環境条件に応じて選択的利点を提供します。代表的な機能には以下が含まれます。
- 抗生物質耐性遺伝子(Rプラスミド)を運び、抗生物質環境下で宿主細菌の生存を助ける。
- 代謝経路を提供して、特殊な基質(難分解有機物や新奇な炭素源)の分解を可能にする。
- 植物病原性に関与する遺伝子(例:AgrobacteriumのTiプラスミド)や毒素産生遺伝子を含むことがある。
- 窒素固定や重金属耐性など、特定の生態機能を付与する。
- 毒素-抗毒素システム(アディクションシステム)により、プラスミドを喪失した細胞が不利になることでプラスミドの維持を助ける。
抗生物質耐性における重要性
プラスミドは多くの抗生物質耐性遺伝子を高頻度で運搬します。これにより耐性遺伝子は種を越えて広がり、臨床的に重大な多剤耐性(MDR)菌の出現に寄与します。プラスミドはトランスポゾンやイントロン(インテグロン)と共に組み合わさることで、複数の耐性遺伝子を一つの可動ユニットとして移動させることができます。これが病院内感染や農業現場での耐性拡大の主要因となっています。
耐性プラスミドの伝播を抑えるためには、抗生物質の適正使用、院内感染対策、環境中の耐性遺伝子モニタリングが重要です。また、プラスミドを標的にした新しい治療戦略(プラスミド除去剤やコンジュゲーション阻害剤の研究)も進められています。
分類と互換性
プラスミドは機能や配列、伝播性に基づいてさまざまに分類されます。重要な概念に「不和合性群(incompatibility group、Inc群)」があり、同一細胞内で同じ複製制御を持つ2つのプラスミドは共存できない場合があります。Inc群の分類は実験的に決められ、疫学調査やトレーサビリティに利用されます。
研究・バイオテクノロジーでの利用
分子生物学や遺伝子工学では、プラスミドはクローニングベクター、発現ベクター、遺伝子改変ツールとして不可欠です。研究用プラスミドは選択マーカー、多クローン化部位(MCS)、プロモーターなどを搭載し、遺伝子の導入・発現・発現制御を容易にします。医薬品生産や遺伝子治療研究でも重要な役割を果たしますが、バイオセーフティ上の配慮が必要です。
管理・制御と今後の課題
臨床・環境での耐性拡大に対し、プラスミドの拡散メカニズム理解と監視は重要です。研究者はプラスミドの伝播ネットワーク、移入因子(トランスポゾン・インテグロン)、宿主間適応性を解析し、制御戦略(抗生物質使用量の削減、伝播阻害剤の開発、プラスミド除去手法の改善)を模索しています。また、合成生物学領域では安全設計(遺伝子流出防止や自滅回路)を組み込んだプラスミドの設計も進んでいます。
まとめると、プラスミドは微生物の適応と進化、環境中での機能獲得において中心的な役割を果たす可動性遺伝要素であり、その制御と理解は公衆衛生や産業応用の上で不可欠です。
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図1】染色体 DNAとプラスミドを封入した細菌を示す説明図である。
質問と回答
Q:プラスミドとは何ですか?
A: プラスミドとは、染色体DNAとは別のDNA分子で、独立して複製することができます。二本鎖で、多くの場合、円形の形をしています。
Q: 「プラスミド」という言葉は誰が言い出したのですか?
A:「プラスミド」という言葉は、1952年にアメリカの分子生物学者ジョシュア・レダーバーグによって初めて紹介されました。
Q: プラスミドはどれくらいの大きさですか?
A: プラスミドの大きさは1〜1,000キロベースペア(kbp)以上と様々です。
Q: プラスミドはどこで自然に発生するのですか?
A: プラスミドは通常バクテリアに存在しますが、サッカロミセス・セレビシエのような真核生物に存在することもあります。
Q: プラスミドと遺伝子の水平移動はどのような関係があるのですか?
A:プラスミドは、遺伝子水平移動のメカニズムであるコンジュゲーションに関連することが多い。
Q: プラスミドは生きているのですか?
A:いいえ、ウイルスと同様に、プラスミドは現在定義されている生命の形態とは考えられていません。
Q: プラスミドに特定の遺伝子を持たせることで、どのような利点があるのか?
A: プラスミドに特定の遺伝子を持たせることで、バクテリアに元素状窒素の固定能力や難分解性有機化合物の分解能力を与えることができ、栄養不足の条件下で有利になる可能性があります。