問題解決入門:定義・分類・プロセスと心理学・AIの手法
問題解決は、知性や思考に関連した精神活動の一つであり、ある状況(問題)を望ましい状態に変えるための手続きや方法を見つけ出すことを指します。問題とは一般に「何かを変える必要があり、その具体的な解決手段が完全には明らかでない状況」を意味します。人間の生活の多くは問題解決に費やされ、社会や組織は個人では対処しきれない問題を共同で解決する仕組みとして成り立っています。
定義と語源
「問題」という言葉は、ギリシャ語で「障害物」(邪魔なもの)を意味する語に由来するとされています。問題を抱えた状況では、その障害を取り除くか回避するための解決策(ソリューション)を見つける必要があります。解決策を得るための思考過程や手法は多岐にわたり、日常的な判断から専門的な分析まで幅広く応用されます。
問題の分類
問題は大きく分けて以下のように分類できます。
- 十分に定義された問題(well-defined problems):目標が明確で、初期状態と許容される操作や制約がはっきりしている問題。数学の方程式やチェスの終局のように、解答や解法の検証が可能なもの。初期の計画を立てやすい特徴があります。
- 不明確(曖昧)な問題(ill-defined problems):目標が曖昧、評価基準や解の範囲がはっきりしない問題。政策立案、組織の戦略、将来の脅威への対応などが挙げられます。解決には目標の明確化や多様な視点の導入が必要です。
問題解決の一般的プロセス
問題解決の典型的なステップは次の通りです。分野や状況により前後や反復はありますが、基本的な流れとして有用です。
- 問題の認識と定義:何が問題なのか、望ましいゴールは何か、制約やリソースは何かを明確にする。
- 表象(メンタル・モデル)の構築:問題をどのように捉えるか(図、数式、フレームワークなど)を決める。表現の仕方で解法の見え方が変わる。
- 解決策の生成:既存のルールやアルゴリズム、経験則(ヒューリスティクス)、創造的発想を用いて複数の候補を出す。
- 評価と選択:候補を評価基準に照らして比較・検討し、最も適切なものを選ぶ。
- 実行とモニタリング:選んだ解決策を実行し、結果を観察して必要なら修正(フィードバック)する。
心理学からの視点
心理学では、問題解決は認知過程として幅広く研究されています。例えば、ゲシュタルト心理学は全体的な認識の再構成(再構成による洞察)を重視し、固定観念から離れることで解決が生まれることを示しました。一方、認知心理学、チェスなどの研究では、問題の表象、作業記憶、長期記憶におけるパターン認識や専門家・初心者の思考差が明らかにされています。
また、問題解決にはいくつかの心理的障害やバイアスが影響します。代表的なものを挙げます:
- 機能的固定観念(functional fixedness):物や概念の使い方に固執して、新しい使い方や解法を見落とすこと。
- 類比の活用不足:過去の類似事例を適切に参照できないことで、既存の有効な解法を見逃すこと。
- 確証バイアス(confirmation bias):自分の仮説に合う情報だけを集め、反証情報を無視する傾向。
人工知能・計算機科学・工学における手法
問題解決は多くの工学分野で中心的テーマであり、人工知能、コンピュータサイエンス、工学、数学などでさまざまな手法が開発されています。主なアプローチを挙げます:
- 探索アルゴリズム:幅優先探索、深さ優先探索、A*など、状態空間を構造化して最適解や実用的な解を見つける手法。
- 最適化手法:線形計画法、整数計画法、進化的アルゴリズム、局所探索など、コストや目的関数を最小化/最大化する方法。
- 制約充足問題(CSP):変数・ドメイン・制約を定義して、制約を満たす解を探索する方法。
- 計画問題とスケジューリング:順序やリソース制約を考慮した実行計画の生成。
- 機械学習・データ駆動手法:過去データからモデルを学習して予測や最適な意思決定を行う。強化学習は試行錯誤で最適方策を学ぶ代表例です。
- 専門家システム・ルールベース:人間の専門知識をルールとして表現し、推論エンジンで問題解決を支援する。
実践的な技法とヒューリスティクス
実務や日常では、完全な最適解が得られない場合が多く、以下のような実践的技法が有効です。
- 分割と統治:問題を小さな部分に分割して順に解く。
- 逆推論(ゴールからの分析):目標から逆に必要条件をたどる方法(手段目的分析、means-ends analysis)。
- ブレインストーミング:評価を先送りしてまず多くのアイデアを出すことで創造性を促す。
- プロトタイピングと反復:小さな試作で早めに検証し、学習しながら改良する。
まとめと実用上のポイント
問題解決は単に正しい答えを見つけることだけでなく、問題を適切に定義・表象し、目的や制約を明確にした上で、利用可能な手法を組み合わせて実行・評価する一連のプロセスです。心理的なバイアスや固定観念を意識的に排除し、必要に応じて専門的な計算手法やチームでの協働を組み合わせることで、より良い解決が得られます。