バルトネラ属(Bartonella)とは:特徴・感染経路・ヒトへの影響
バルトネラ属の特徴・感染経路・ヒトへの影響をわかりやすく解説。媒介動物、症状、診断・予防法まで最新知見を網羅した入門ガイド。
バルトネラ属は、細菌の一種である。Bartonellaceae科に属する唯一のものである。本種は、動物やヒトに寄生して病気を引き起こすことがある。細胞内寄生虫として、主に宿主の細胞内に生息しています。
バルトネラ属菌は病原体です。バルトネラ属菌はマダニ、ノミ、イエバエ、蚊などの媒介により感染する。少なくとも8種のバルトネラ属菌または亜種がヒトに感染することが知られています。
バルトネラは、医学微生物学者であるアルベルト・レオナルド・バートン(1870-1950)にちなんで命名された。
特徴(形態と生活環)
バルトネラ属はグラム陰性の短桿菌で、薄い好気性または微好気性条件下で成長します。多くの種は細胞内寄生性で、特に血管内皮細胞や赤血球(種によって異なる)に感染・持続感染します。培養は一般的に難しく、増殖が遅いため特殊な培地や長期培養が必要となることがあります。
主な種と宿主・保因動物
- Bartonella henselae:ネコが主要な保因動物で、ヒトには主にネコの引っかき傷やノミを介して感染します。
- Bartonella quintana:ヒトひとが主な宿主で、体虱(シラミ、body louse)で媒介され、歴史的に「トレンチ熱(trench fever)」の原因となった。
- Bartonella bacilliformis:アンデス地域で見られ、サンドフライ(サシチョウバエ)で媒介され、重篤なOroya熱や血管内皮に関連する症状を引き起こす。
- その他、B. elizabethae, B. vinsonii亜種, B. clarridgeiae, B. koehlerae, B. rochalimaeなど、少なくとも8種・亜種がヒト感染と関連付けられています。
感染経路(媒介と伝播)
感染は主に節足動物を介した媒介で起こります。具体的には:
- ノミ:ネコのノミがB. henselaeの伝播に重要。
- シラミ(体虱):B. quintanaを介してヒトからヒトへ拡大する。
- サンドフライやマダニ、イエバエ、蚊:地域や種により媒介役割を果たすことがある(ただし媒介の確実性は種による)。
- 直接接触:ネコに引っかかれたり咬まれたりすることで、B. henselaeが傷口から侵入することがある。
ヒトへの影響(臨床像)
バルトネラ感染は臨床像が幅広く、軽症の局所リンパ節炎から生命を脅かす全身性疾患まで及びます。主なもの:
- 猫引っ掻き病(Cat-scratch disease):B. henselaeによる最も一般的な疾患で、感染後に局所のリンパ節腫脹、発熱、疲労などを呈する。通常は軽症で自然軽快する場合が多いが、時に長期化する。
- 血管増殖性病変(Bacillary angiomatosis):免疫抑制状態(例:HIV感染患者)でB. henselaeやB. quintanaが血管内皮に作用して血管プロリフェレーションを引き起こし、皮膚や内臓に出血性の腫瘤を形成することがある。
- Oroya熱・血液病変:B. bacilliformis感染で見られ、急性期には重度の溶血性貧血(Oroya熱)、慢性期には皮膚血管腫(Verruga peruana)など。
- 心内膜炎(感染性心内膜炎):血液培養で見逃されやすい「血清陰性心内膜炎」を引き起こすことがあり、長期抗菌薬療法や外科的処置が必要になる場合がある。
- その他、髄膜炎、網脈膜炎や視神経障害(神経眼科的合併症)、慢性疲労様症状など多彩な症状が報告されています。
診断
診断はやや難しいことがあります。主な検査法:
- 血液培養:増殖が遅く、特殊培地や長期培養を要するため陰性になりやすい。
- 免疫血清学(抗体検査):間接蛍光抗体法(IFA)などで検出するが、感度・特異度は種や病期により異なる。
- PCR(遺伝子検査):血液や組織生検材料からの遺伝子検出は高感度で有用。
- 組織病理:切片でWarthin–Starry銀染色などにより桿菌を確認したり、病変の特徴的所見を得る。
治療
治療は疾患の種類と重症度で異なりますが、一般的な方針:
- 軽症の猫引っ掻き病:経口マクロライド系(アジスロマイシンなど)やドキシサイクリンが用いられることが多い。
- 血管増殖性病変や重症感染:マクロライド系やドキシサイクリンに加え、重症例ではアミノグリコシド(ゲンタマイシン)やリファンピシンの併用・長期治療が検討される。
- 心内膜炎:原則として長期(数週間〜数か月)の組み合わせ抗菌薬療法が必要で、しばしば外科的介入を伴う。
選択する抗菌薬や投与期間は感染した種、患者の免疫状態、臨床像により変わるため、専門医による判断が重要です。
予防
- ネコやペットのノミ駆除を徹底する。
- ネコに引っ掻かれたり咬まれたりした場合は早めに創部を洗浄し、必要なら医療機関を受診する。
- ホームレスや衛生状態が悪い環境で問題となるB. quintanaに対しては生活環境の改善と虱の駆除が重要。
- アウトドア活動時は蚊やマダニなど節足動物対策(防虫剤、長袖着用など)を講じる。
まとめ(ポイント)
- バルトネラ属はグラム陰性の細胞内寄生性細菌で、複数の種がヒトに病気を引き起こす。
- 主な感染経路は節足動物による媒介および動物との直接接触で、臨床像は軽症のリンパ節炎から重篤な血管増殖性病変や心内膜炎まで幅広い。
- 診断には培養・PCR・血清学・組織診断が用いられ、治療は疾患像に応じた抗菌薬療法が中心である。
疑わしい感染がある場合は速やかに医療機関で評価を受け、適切な検査と治療を受けることが重要です。
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