アビドス王一覧(通称:アビドス表)は、古代エジプトの王を系統的に列挙した石刻王名表で、合計で76個のカルトゥーシュ(王名を囲む楕円形)が刻まれている。これはセティ1世が建てたアビドスの神殿の壁面に残されており、古代エジプトの王統や王権観を知る上で重要な史料の一つである。

構成と内容

表は複数の列・段に配列され、主に先代の王たちを列挙する部分と、神殿建立者本人(およびその後継者)の王名が記されている部分とに分かれる。上段・中段には歴代の王名が並び、下段にはセティ1世自身の王位名(プラエノメン)やラムセス2世の名などが繰り返して記されている。各カルトゥーシュは王名を明確に示すための枠であり、王号(トローネーム=プラエノメンや(場合によっては)ノーメン=出生名)を示すことが多い。

特徴と省略

アビドス表は、政治的・宗教的な理由から一部の王を意図的に省いている点が特徴的である。具体的には以下のような点が指摘されている:

  • アケナテンやその宗教改革(アマルナ改革)に関与したとされる王たちは除外されている。
  • ハトシェプストのように在位の正当性が議論された女性ファラオや、スメンクカレ、ツタンカーメン、アイなど一時的・特殊な事情で正統性が疑われた王の名も掲載されていない。
  • 逆に、他の史料では不明瞭な第七王朝・第八王朝の多くの王名がここに記されており、当該時代の王名を知るうえで重要な唯一の資料になっている場合がある。

歴史学・年代学における意義

アビドス表は、他の王名表(例:トリノ写本(トリノ王名表)やパレルモ石)や歴史学者の系譜(マネトの記述)と照合することで、エジプト王朝の通史と年代決定に重要な手がかりを与える。特に断片的な史料が多い古王国末期から中間期にかけての王統を補完する点で有用である。また、省略された王の存在は、古代エジプトにおける「正統性」「宗教的正当化」の観念を示す史料的証拠としても注目される。

保存状態と研究史

刻銘は長年の風化や人為的損傷を受けており、現在でも一部は破損・欠落している。発掘・写本・写真撮影などを通じ、19世紀以降の学術調査で詳細が報告されてきた。表にある王名の解読・同定には継続的な議論があり、新出の資料や再検討によって解釈が更新されることがある。

まとめ

アビドス王一覧(アビドス表)は、セティ1世神殿に刻まれた古代エジプトの王名表で、合計76のカルトゥーシュを含む重要な史料である。政治的・宗教的理由により一部の王が意図的に除外されている点や、第七・第八王朝の王名の貴重な記録を含む点などから、エジプト古代史の研究において欠かせない資料とされている。