暗黒物質とは?定義・観測証拠・宇宙での割合と性質を解説
暗黒物質は、宇宙の質量の多くを担っていると考えられている物質の一種です。
定義と初期の発見
このアイデアは、天文学者たちが、大きな天体の質量とその重力効果が、星、ガス、塵などを含む「発光物質」の質量よりもはるかに大きいことを発見したときに生まれました。暗黒物質は光をほとんど放射せず、反射もしないため直接観測できず、その存在は主に重力的な影響から間接的に推定されます。
暗黒物質は、天の川の星の自転速度の理由として、1932年にヤン・オルトによって最初に提案されました。1933年にはフリッツ・ズヴィッキーが、銀河団の中の銀河の運動から「欠落した質量」を示唆し、暗黒物質という考えを用いて説明しました。これらが暗黒物質研究の出発点です。
観測証拠(主なもの)
- 銀河の回転曲線:多くの銀河で、外側の星やガスの公転速度が中心からの距離とともに急激に減少せず、ほぼ一定となることが観測されます。これは見えている質量だけでは説明できず、銀河を包む暗黒物質ハローの存在を示します。
- 銀河団内の運動(速度分散):銀河団内の銀河やガスの運動エネルギーから推定される質量は、発光物質だけでは足りません。ズヴィッキーが指摘した「欠落質量」の問題です。
- 重力レンズ現象:遠方の光が手前の質量によって曲げられる強い・弱い重力レンズ効果を解析すると、発光物質よりも多くの質量が存在することが示されます。これにより、銀河や銀河団の質量分布をマップできます(背景天体の像の歪みなど)。
- バルクのX線観測とガス分布:銀河団に存在する高温ガスが放つX線の分布や温度は、重力による束縛を受けていることを示し、その重力源の大部分が発光物質ではないことを示唆します。これも暗黒物質の存在を支持する証拠です。
- 宇宙背景放射(CMB)のゆらぎ:プランク計画チームによる精密な測定などから、初期宇宙における密度ゆらぎの振幅とスペクトルは、通常物質だけでは説明できず、暗黒物質の存在を仮定した標準宇宙論(ΛCDM)モデルがよく一致します。
- バレット・クラスタ(Bullet Cluster)の観測):2006年に報告された代表的な観測例では、2つの銀河団の衝突によって発光する高温ガス(通常物質)が相互作用で遅れ、重力質量のピーク(重力レンズでマッピングされたもの)はガスから分離していることが示されました。これは「衝突時に摩擦的に遅れる通常物質」と「ほとんど相互作用しない暗黒物質(衝突をほぼすり抜ける)」という性質を支持する強力な証拠とされています。
- 大規模構造の形成:観測される銀河や銀河団の大規模分布や進化の歴史も、重力で早期に構造を成長させるために暗黒物質の存在を要請します。特に「冷たい」暗黒物質(速度が遅いもの)が標準モデルで好まれます。
宇宙での割合(エネルギー密度の内訳)
プランク計画チームによる標準宇宙論モデルに基づく解析では、既知の宇宙の全質量エネルギーに占める割合は概ね次のように見積もられています:通常物質(バリオン)は約4.9%、暗黒物質は約26.8%、暗黒エネルギーは約68.3%。したがって、物質(バリオン+暗黒物質)の総和に対する暗黒物質の占める割合は約84.5%で、暗黒エネルギーと暗黒物質を合わせると宇宙全体の約95.1%を占めることになります。
暗黒物質の性質と候補
- 非発光・弱く相互作用する:暗黒物質は電磁気的にほとんど相互作用しないため、光を放射・吸収・散乱しません。したがって直接の光学観測では見えません。
- 衝突断熱性(ほぼ非衝突性):バレット・クラスタのような観測から、暗黒物質は通常物質と比べて自己相互作用が非常に小さい(ほぼ弾性に衝突をすり抜ける)ことが示唆されますが、弱い自己相互作用を許すモデルも研究されています。
- 運動論的性質:暗黒物質は冷たい(Cold)、暖かい(Warm)、熱い(Hot)のいずれかに分類されます。現在の観測は大規模構造形成をうまく説明するために「冷たい暗黒物質(CDM)」を支持しています。
- 候補粒子:代表的な理論候補としては、次のようなものがあります。
- WIMP(弱く相互作用する重い粒子):熱的起源を持ち、質量や相互作用強度が弱い粒子。多くの直接検出実験がこの探索を行ってきました。
- アクシオン:非常に軽くて弱く相互作用する予言された粒子。異なる検出手法(共鳴キャビティなど)で探索中です。
- 滞留ニュートリノやステライル(右巻き)ニュートリノ:標準モデルのニュートリノとは異なる性質を持つ可能性のある候補。
- MACHO(コンパクトな恒星残骸などの天体):一時期提案されましたが、マイクロレンズ観測などで宇宙全体の暗黒物質の大部分を説明するには不十分とされました。
検出方法と現在の状況
- 直接検出実験:地下に設置した超低背景検出器で暗黒物質粒子と原子核との散乱を捉えようとする試み(例:XENON、LUX、PandaXなど)。これまで決定的なシグナルは得られていません。
- 間接検出:暗黒物質の自己消滅や崩壊が生成するとされるガンマ線、陽電子、ニュートリノなどの異常な放射を観測する方法(例:フェルミ衛星、AMSなど)。候補シグナルは議論がありますが確定はしていません。
- 加速器実験:大型ハドロン衝突型加速器(LHCなど)で新粒子の生成や見えない崩壊を通して暗黒物質関連の兆候を探す試み。制約は得られているものの決定的な発見はありません。
- 天文学的観測:重力レンズや銀河・銀河団の詳細観測、CMBの精密測定を通じて性質や分布を間接的に制約します。
代替説
暗黒物質を仮定する代わりに、ニュートン力学や一般相対論の修正で観測を説明しようとする試み(MONDやその拡張)もあります。これらは銀河スケールでは成功する場合がありますが、銀河団スケールやCMB、重力レンズの詳細な観測を一貫して説明するのは難しく、現在は暗黒物質存在を前提にしたΛCDMモデルが広く受け入れられています。
まとめ
暗黒物質は私たちの目には見えないが重力的に確かな影響を及ぼす存在として、天文学・宇宙論における基本的な要素です。歴史的な銀河の回転曲線、銀河団での質量測定、重力レンズやCMBの観測、バレット・クラスタのような衝突系など、多様な観測が暗黒物質の存在を支持します。しかし、その正体(何の粒子か、あるいは別の説明が必要か)は未だに明確にされておらず、現在も世界中で直接検出・間接検出・加速器実験・天文学観測が活発に行われています。将来の観測と実験がその謎を解く鍵となるでしょう。
ダークマターは光やX線などの放射線を出したり反射したりしないようなので、通常の物質(高温ガスや星、惑星、私たちのようなもの)を探すための機器ではダークマターを見つけることができません。どうやら暗黒物質は、私たちが地球上で毎日見ている物質と同じものでできているわけではないようです。暗黒物質が存在するかどうかは、重力によって「見える」ものにどのような影響を与えるかでしかわかりません。
2006年、ある科学者グループが暗黒物質を発見したと主張しました。暗黒物質は通常の物質とは大きく異なる物質であると考えられているため、異なる振る舞いをすると予想されています。科学者たちは、遠く離れた2つの銀河団が高速で衝突しているのを観測しました。重力を測定することで、2つの暗黒物質の雲と、その間にある正常物質(高温ガス)の雲のように見えるものを検出することができました。


ダークマターは目 に見えない。重力レンズの効果により、同じ銀河の複数の画像が表示される。これを説明するために、暗黒物質のリングが提案されています。この画像では、銀河 団 (CL0024+17) の暗黒物質が青く見えています。
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質問と回答
Q:ダークマターとは何ですか?
A: 暗黒物質とは、宇宙の質量の大部分を占めると考えられている物質の一種です。1932年にヤン・オートが、1933年にフリッツ・ツヴィッキーが、それぞれ星や銀河の回転速度の説明として初めて提唱した。
Q: なぜ暗黒物質が存在すると考えられているのですか?
A: 銀河の自転速度、背景天体の重力レンズ効果、銀河や銀河団の高温ガスの温度分布などの観測から、暗黒物質が存在すると考えられています。
Q: 暗黒物質が宇宙に占める割合はどのくらいですか?
A: プランクトンミッションチームの推定によると、暗黒物質が宇宙全体の物質の84.5%を占め、暗黒エネルギーと暗黒物質が宇宙全体の「もの」の95.1%を占めていることが分かっています。
Q: どのようにして暗黒物質を検出するのですか?
A: 暗黒物質は光やX線などの放射線を発したり反射したりしないので、高温のガスや星、惑星などの通常の物質を見つけるのに使われる装置では検出できません。暗黒物質があるかどうかは、重力によって私たちが「見る」ことができるものにどのような影響を与えるかで判断するしかないのです。
Q: 2006年、ある科学者グループは何を検出する方法を見つけたと主張したのですか?
A: 2006年、ある科学者グループが、高速で衝突した遠方の2つの銀河団を観測することによって、暗黒物質を検出する方法を見つけたと主張しました。
Q: 宇宙に暗黒物質が存在することを示唆する例にはどのようなものがありますか?
A: 銀河の回転速度、重力レンズの背景天体、銀河や星団の中の高温ガスの温度分布などが、暗黒物質の存在を示唆する例として挙げられます。