イギリスでは、イングランドとウェールズでは1600年以前(スコットランドでは1750年以前)から継続して存在する森林を「古代林」と呼んでいます。それ以前には大規模な植林や人工造成がほとんど行われていなかったため、1600年に既に存在していた林は自然に発展・維持されてきた可能性が高く、長年にわたる自然過程が作り上げた特殊な構造や生物層が残っています。アメリカなどでは同様の森林を「old growth forest」(オールドグロース/原生林・古林)と呼び、国際的には「primary forest(原生林)」や「old-growth(古成林)」といった概念と重なる部分があります。
古代林は単に古い樹木が残っているだけでなく、立木の多様な年齢層、倒木や立枯れ(スネアウッド・デッドウッド)の多さ、豊かな土壌層や微地形の保全、そして長期にわたる安定した生態過程によって特徴付けられます。こうした特徴は多くの生物にとって重要な生活基盤を提供します。具体的には、以下のような点で価値があります。
- 生物多様性の維持:専門性の高い菌類や地衣類、菌根菌、腐食を利用する昆虫や土壌動物、古木を利用する鳥類・コウモリ等、他の若い植生では見られない種群が多く棲息します。
- 生態系サービス:長期にわたる炭素蓄積(気候調節)、水源涵養や洪水緩和(浸透・保水能力)、土壌の保持、景観・文化的価値(歴史的景観やレクリエーション)など。
- 希少種の生息地:英国の古代林は、熱帯の熱帯雨林と同様にその地域内で特に希少種や絶滅危惧種を多く抱える場となることがあります。
古代林の所在は、Natural England などの機関が歴史的文献・古地図、土壌と植生の検査、指標種の分布などを基に地図(例えばAncient Woodland Inventory)で分類・記録しています。英国ではさらに「Ancient Semi-Natural Woodland(古代半自然林)」や「Plantations on Ancient Woodland Sites(PAWS:古代林跡地に造林された人工林)」といった区分が用いられ、保全や管理方針の参考にされています。ただし、こうした地図や分類は更新や解釈の余地があり、古代林と判定されれば自動的に法的に完全保護されるわけではありません。
実際の法的保護や運用は地域によって異なり、英国の計画政策では古代林や大木(veteran trees)を「取り替え不可能な生息地(irreplaceable habitat)」として重要視する一方、完全に開発を禁止する仕組みがないため、開発や植栽・伐採などの圧力にさらされることがあります。古代林の保全に関する一般的な対策と管理の方向性は次のとおりです。
- 法的・計画面での配慮:土地利用計画や環境影響評価で古代林の存在を考慮し、重要性に応じて保護指定(例:SSSI=Site of Special Scientific Interest等)や開発制限を検討する。
- 管理と復元:非干渉(自然回復)を基本としつつ、侵略的種の駆除、適切な間伐や下層植生の保全、枯死木の残存、混植による構造的多様性の回復などを行う。
- 緩衝地帯と連結性:古代林周辺にバッファーを設けて外来圧力を低減し、周辺の緑地や生態回廊とつなげて断片化の影響を緩和する。
- 調査・監視:古地図調査、現地での指標種リストや土壌調査、長期モニタリングを通じて状態を把握し、管理方針を更新する。
- 地域社会との協働:地元住民や民間団体、研究機関と協力して保全活動や教育、ボランティア参加を促す。
脅威としては、都市開発・インフラ建設、集約的な農地転換、外来種の進入、気候変動による病害虫の増加や乾燥化、そして林分の断片化などが挙げられます。これらに対しては、開発段階での回避・最小化、既存古代林の保全優先、必要な場合の復元計画(原則として元の古代林と同等の生態系を短期間で再生することは困難であるため、慎重な判断が求められます)が重要です。
古代林はその歴史的・生態学的な希少性から「かけがえのない資源」や「重要な自然資本」と表現されます。保全には科学的知見に基づく適切な管理、法的・計画的配慮、そして地域社会の理解と協力が不可欠です。古代林を見分けるためには、古地図や土地利用史の確認、指標種の有無、立木の年輪や形態(老大木や空洞)、土壌の成熟度などを総合的に判断します。将来に向けては、既存古代林の保護とともに、周辺環境の改善や植生連続性の回復を通じて、その生態系サービスと生物多様性を維持・強化していくことが求められます。

