物理学および電子工学において、ヘンリー(記号H)はインダクタンスのSI単位である。インダクタンスは電流の変化に対して生じる起電力の割合を表し、単位としてはウェーバー(Wb)をアンペア(A)で割ったもの、すなわち Wb/A と等しい。単位名はアメリカの物理学者ジョセフ・ヘンリー(1797–1878)にちなんで命名された。なお、マイケル・ファラデーも独立に電磁誘導を発見しており、ヘンリーとファラデーはほぼ同時期に同様の現象を報告している。

定義と次元

  • 基本的な定義:1 H は、電流が1アンペアの変化をする際に1ボルト秒(1 Wb)の磁束変化を生じさせる回路要素のインダクタンスに相当する。すなわち 1 H = 1 Wb/A。
  • SI基本単位による表現:1 H = kg·m²·s⁻²·A⁻² = J·A⁻²。これは、インダクタンスがエネルギー(J)を電流の二乗(A²)で割ったものとして扱えることを示す。
  • 他の等価な表現:1 H = 1 Ω·s(オーム秒) = 1 Wb/A = 1 J/A²。

換算と一般的な大きさ

  • 1 H = 10³ mH(ミリヘンリー) = 10⁶ μH(マイクロヘンリー) = 10⁹ nH(ナノヘンリー)。
  • 電子回路では一般に nH〜mH の範囲で用いられる。パワーインダクタやトランスの一次巻線では mH〜H 程度の値が使われることが多い。

エネルギーと代表的な公式

  • インダクタに蓄えられるエネルギー:E = 1/2 · L · I² (E はジュール、L はヘンリー、I はアンペア)。
  • 長いソレノイド(単純モデル)の自己インダクタンス:
    L = μ₀ μr · (N² A / ℓ)
    ここで N は巻数、A は断面積、ℓ はコイルの長さ、μr は相対透磁率、μ₀ は真空の透磁率である。

真空の透磁率(μ₀)について

かつてはμ₀(真空の透磁率)は定義により正確に 4π×10−7 H/m とされていたが、2019年のSI再定義以降はこれが定義定数ではなくなり、厳密値ではなく実験的に決定される物理定数となった。近年の値は約 1.25663706×10−6 H/m(約 4π×10−7 H/m に近い)であるが、現在は不確かさを伴う測定値である点に注意されたい。

表記上の注意・由来

  • 単位記号は人名に由来するため大文字の H を用する(例:L = 2 H)。しかし、単位名そのもの(英語では "henry"、日本語では「ヘンリー」)は通常小文字で表記することが慣例である。
  • 米国標準技術研究所(NIST)は、英語での複数形に関して "henry" を用いることなど、単位名を大文字にしないことを含む表記の指針を示している。

実用上の例

  • ラジオ周波数回路:数 nH 〜 数十 μH のインダクタが用いられる。
  • 電源フィルタ:数十 μH 〜 数 mH のチョークコイルが使われる。
  • 大型変圧器やパワーインダクタ:数 mH 〜 数 H の自己インダクタンスを持つことがある。

以上が、ヘンリー(H)の定義、由来、換算と実用的な説明である。必要であれば、単位の導出(例:ソレノイドモデルの詳しい導出)や具体的な計算例も補足できます。