公案(こうあん)とは:禅の逆説的課題 — 定義と解説
他の用途については、「公案」を参照。
公案(中国語:公案、韓国語:공안、ローマ字:kong'an)とは、関連する問いと答えの集まりで、逆説のようなものである。公案は、簡単に理解したり説明したりできない物語である場合もある。
公案とは、「片手で拍手する音」のような意味を秘めた特殊な比喩である場合もある。
定義と特徴
公案は、禅(特に臨済宗などの禅系)で用いられる問いや短い物語、問答のことを指します。表面的には論理的な答えがないか矛盾を含むことが多く、知的に解析して理解することを目的とするのではなく、思考の枠組みを破り、直感的な悟り(見性・見真如)を促すために使われます。
歴史的背景
語源としての「公案」はもともと中国の律令や法制で使われた「公の事案(判例)」を意味しましたが、禅宗の文脈では僧侶の問答や師資相承の事例集を指すようになりました。宋代以降、禅僧の間で問答集や公案集が編まれ、以下のような主要な公案集が成立しました。
- 無門関(むもんかん) — 英語では Gateless Gate として知られる公案集
- 碧巌録(へきがんろく) — Blue Cliff Record として知られる公案集
- 五灯会元(ごとうえげん)や景徳伝灯録(けいとくでんとうろく)などの伝承記録
目的と実践法
公案は坐禅や日常の修行における「道具」として用いられます。典型的な修行の流れは次の通りです。
- 師(老師)が弟子に公案を与える。
- 弟子は公案について坐禅や日常生活の中で反復して考え、言葉や理屈を超えた理解を追求する。
- 一定期間後、弟子は公案の理解を試されるために参禅(問答)で師に答えを呈示する。
- 師はその答えや態度を通じて、悟り(見性)があるかどうかを判断する。
重要な点:公案の解答は学術的な「正解」を求めるものではなく、直接的な悟りや身体的・言語的反応(行動や表現)を通じて示されることが多いです。
代表的な公案の例
- 趙州の「無」(趙州狗子の問)— 「狗に仏性ありや?」(仏性はあるか)と問われ、「無(む)」と答えた有名な公案。論理を越えた応答で、弟子を覚醒へ導く道具となる。
- 片手の拍手(「片手で拍手する音」)— 片手だけで拍手する音はどう聞こえるか、という逆説的な問い。思考で解こうとするだけでは到達できない洞察を促す。
- その他、師と弟子の短い問答や突拍子もない応答を含む事例が多い。
種類と関連用語
- 公案(基本問):弟子に与えられる中心的な問い。
- 却下(こっか)や拍手・喝(かつ):師が弟子の答えに対して示す評価や修正。しばしば直接的な身体表現を伴う。
- 作句(作語)・借句(jakugo):ある段階で公案に対する短い文句や俳句のような表現を用いることがある(臨済系など)。
現代における理解と誤解
西洋や現代の文脈では、公案はしばしば「謎」「逆説」あるいは「抽象芸術」のように扱われますが、禅での本来的な目的は思考停止でも詭弁でもなく、「直接体験に導く手段」です。公案を解く/解かれる過程で、言葉や論理に依存しない実践的な変化(行動、態度、気づき)が生じることが重視されます。
まとめ
公案は単なる知的パズルではなく、禅の修行において師と弟子が用いる教育的・覚醒的な道具です。矛盾や逆説を通じて、思考の枠を超えた直接的な洞察を促すことを目的としています。代表的な公案集や具体例に触れることで、その意図と実践法がより明確になります。
選択例
- "薪は灰になり、再び薪になることはない "ということです。
- "言語と非言語は、木にしがみつくツルのようなもの"。