ルリア=デルブリュック実験(ゆらぎ試験)とは:バクテリアのランダム突然変異と自然淘汰
ルリア=デルブリュック実験(ゆらぎ試験)解説:バクテリアのランダム突然変異と自然淘汰の関係を歴史と実験でわかりやすく解説、ノーベル賞研究の核心へ。
ルリア・デルブリュック実験(1943年)は、「ゆらぎテスト」とも呼ばれ、次のような疑問に答えるために行われました。つまり、「突然変異は、自然淘汰から独立しているのだろうか?」――突然変異は環境や淘汰に誘導されるのか、それとも環境に先立ってランダムに起こるのか、という問いです。
マックス・デルブリュックとサルバドール・ルリアは、バクテリアにおいてDNAの突然変異がランダムに起こることを明らかにしました。つまり、突然変異は淘汰に反応して生じるのではなく、いつでも発生し得て、発生した変異の中から環境に適したものが選択される、という結論です。
実験の方法(概要)
典型的なルリア=デルブリュックの「ゆらぎ試験」は以下の手順で行われます。
- 同一の初期細胞数を用いて多数(数十~数百)の独立した小規模培養を立ち上げる。
- 十分に増殖させた後、各培養から同量を選んで選択圧のある培地(例:特定のバクテリオファージや抗生物質を含む寒天)にまく。
- 各皿に現れる耐性コロニーの数を数える。
ここで重要なのは、もし耐性が「選択がかかったときに誘導される」ならば、各培養間で耐性コロニーの数はほぼ平均的に分布するはずです。一方、耐性が培養の増殖過程でランダムに生じる(いわゆる「自発突然変異」)なら、ある培養で早期に変異が起きればその培養は多数の耐性コロニーを生む「ジャックポット(大当たり)」を示し、培養間のばらつき(分散)は平均よりずっと大きくなります。
結果と解釈
ルリアとデルブリュックの実験では、耐性コロニー数の培養間変動が非常に大きく、ジャックポット現象が観察されました。これは突然変異が選択の結果としてその場で起こるのではなく、選択に先立ってランダムに発生することを示すものです。こうして「突然変異は環境に誘導されるのではなくランダムに生じる」という結論が支持され、自然淘汰はランダムな突然変異に対して働くというダーウィンの基本原理が分子のレベルでも成り立つことが示されました。
理論的・実務的意義
この実験は単なる概念実証に留まらず、以下のような広範な影響を持ちます。
- 分子進化論の確立:突然変異が前もって存在し、そこから選択が働くという枠組みが支持され、進化の基本メカニズムが分子レベルでも説明されました。
- 突然変異率の推定手法:実験結果に基づく統計モデル(ルリア=デルブリュック分布)やその後の改良法(Lea–Coulson 法、Ma–Sandri–Sarkar の最尤法など)によって、微生物の突然変異率を実験的に推定できるようになりました。
- 応用面:抗生物質耐性やウイルスの耐性進化の研究、製薬や公衆衛生でのリスク評価に重要な基礎を提供しました。
補足と後続の議論
ルリア=デルブリュック実験は「一般には」突然変異がランダムであることを示しましたが、後年には一部の条件下での「適応突然変異(adaptive mutation)」を主張する研究や議論も登場しました。これらは条件や生物種、分子機構によって例外的な現象が報告されることを示唆しますが、基本的な結論—多くの変異は環境に先立ってランダムに生じ、その中から選択が働く—は依然として広く支持されています。
なお、デルブリュックとルリアはこの一連のウイルス・バクテリア遺伝学の研究によって、アルフレッド・ハーシーとともに1969年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
まとめ:ルリア=デルブリュック実験(ゆらぎ試験)は、微生物を用いて突然変異がランダムに発生し、その後に自然淘汰が働くことを示した古典的実験です。分子進化の理解、突然変異率の定量化、抗生物質耐性など現代の生命科学に与えた影響は極めて大きいものです。

ルリア・デルブリュック実験が検証した2つの可能性。(A) もし、突然変異が培地によって誘発されるなら、ほぼ同じ数の突然変異体 が各プレートに現れると予想される。(B)もし、突然変異が、プレーティングの前の細胞分裂の間に自然に起 こるならば、各プレートに現れる突然変異体の数は、非常にばらつきがあ る。
実験の様子
ルリアとデルブリュックは、チューブの中で細菌を増殖させる実験を行った。一定期間増殖させた後、この別々の培養物を等量、ファージ(ウイルス)の入った寒天培地に置く。もし、ウイルス抵抗性が遺伝子のランダムな変異によるものでなければ、それぞれのプレートにはほぼ同じ数の抵抗性コロニーが含まれるはずである。しかし、デルブリュックとルリアは、このようなことは発見していない。しかし、デルブリュックとルリアは、それぞれのプレート上の耐性コロニーの数に大きなばらつきがあることを発見したのである。
ルリアとデルブリュックは、これらの結果は、最初の培養管で増殖するバクテリアの各世代に一定の割合でランダムな突然変異が起こることで説明できると提唱したのである。
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