マッケンジー大火成岩州(Mackenzie Large Igneous Province: MLIP)は、カナダ南西部〜北西部に広がる、中新星紀の大火成岩州である。これは約12億7千万年前(約1.27Ga)に始まった大規模な火成活動によって形成された一連の火成岩体群で、噴出性の溶岩(洪水玄武岩)とそれに伴う貫入岩(ダイク、シルト、層状侵入岩など)を含む。大規模火成岩州は、北極圏のヌナブットから西へ延び、オンタリオ州北西部の五大湖の近傍にまで達する範囲に広がっている。
MLIPは、地質歴上もっとも大きな原生代(注:正確には中原生代=メソプロテロゾイック)に形成されたマグマ地域であると同時に、世界でも最大級かつ良好に保存された大陸性の洪水玄武岩地形のひとつである。一般に大規模火成岩域は面積が10万km2以上と定義されるが、マッケンジー堤防群自体の影響域を含めると、その面積は少なくとも2,700,000 km2(1,000,000 sq mi)に達すると推定される。この規模は、太平洋にあるオントンジャワ台地やアメリカのアラスカ州に匹敵するかそれ以上である。
構成岩類と主要要素
MLIPを構成する岩石は主にマフィック(鉄・マグネシウムに富む)組成で、噴出岩としての玄武岩や、地下で固結したガブロを含む。全体としては一般にマフィン系の岩相が優勢であり、
- 長距離に放射状に広がる大規模なダイク群(いわゆるマッケンジー堤防群)
- 広域にわたる洪水玄武岩(溶岩流)とそれに伴う堆積-溶岩層
- 大型の層状侵入岩体(例:マスコックス(Muskox)など)
といった要素が含まれる。ダイク群は放射状に広がることで注目され、マントルソースの位置や噴出の中心を推定する手がかりを与える。
形成過程と地球科学的意義
MLIPの形成は、通常のプレートテクトニクスや単なる海底の広がり以外のメカニズム、すなわち短期間に大量のマグマを供給するマントルプルームやホットスポット様の上昇に起因すると考えられている。放射状のダイク群や広範囲にわたる洪水玄武岩は、短時間(数10万〜数百万年スケール)での大量噴出を示唆する。
このような大規模噴出は
- 当時の大陸地殻やプレート配置の再構築(大陸分裂やリフトの形成)に関与した可能性がある
- 深部マントルの性質や熱的構造、マグマ生成過程の研究に重要な自然実験場を提供する
- 層状侵入岩やマグマの分化過程が金属(Ni−Cu−PGEなど)鉱床形成と関連するため、鉱床学的にも注目される
保存状態と比較
MLIPは古い年代(約1.27Ga)にもかかわらず、露頭や地質記録が良好に残っており、原生代以降の変形や侵食を比較的良く免れている部分が多い。これは、他の保存の良い大規模火成岩域と比べても際立った特徴であるため、洪水玄武岩やダイク群の詳細な研究が可能である。規模の面では、MLIPは多くの現代の大規模火成岩域を上回る広がりを示し、ホットスポットやマントルプルームの地質学的効果の典型例として重要視されている。
研究の現状と未解決点
放射年代測定や地球化学的データにより、MLIPの主要活動時期は比較的短期間であったことが示されているが、
- マントル由来の正確な深さや化学組成の詳細
- 噴火中心(プルームの位置)とダイク群の放射中心の厳密な対応
- 当時の大陸の配置やそれが後の大陸移動に及ぼした影響
などはいまだ活発に議論・研究が続いている。現場での詳細な露頭観察、地球化学分析、地球物理探査、さらに精密な年代測定が今後も重要である。
まとめ:マッケンジー大火成岩州(MLIP)は、約1.27Gaに短期間で形成された世界有数の規模を持つ中原生代の大火成岩域であり、広域にわたる洪水玄武岩・ダイク群・層状侵入岩を含む。マントルプルーム起源と考えられ、地球科学上の重要な研究対象であると同時に、鉱床資源や古地理復元の手がかりを提供する。