多形性(ポリフェニズム)とは:環境で形態や性が変わる生物の発達メカニズム

環境刺激で形態や性が変わる多形性(ポリフェニズム)の仕組みを、ワニの性決定など実例で分かりやすく解説。

著者: Leandro Alegsa

多形性(ポリフェニズム)とは、ある個体群の同一の遺伝子背景から出発して、環境の違いによって複数の明瞭に区別できる形態や機能的な状態(フェノタイプ)が現れる現象を指す。これは、ある一つの遺伝子型に起因するもので、遺伝的な突然変異や塩基配列の違いによって生じる「遺伝的多型」とは対照的である。遺伝子の配列はほぼ同じでも、個体は環境情報に応答して異なる発達プログラムを起動し、複数の別個の形を示すことがある(これを総称してポリフェニズムまたは多形性という)。多型性の一種として理解されるが、決定因子は主に外的な条件にある点が特徴であり、個々の形態は同一のゲノムを背景にして発現する。

どのようにして生じるか(発生メカニズム)

多形性は、発達過程の中で働く「スイッチ」によって制御される。生体は外界の手がかりを感知し、それを内部のシグナル伝達系やホルモン系、エピジェネティックな機構に変換することで、ある発達経路を選択する。重要な要素は次の通りである。

  • 感知・情報入力:温度、密度(個体群の密度)、栄養状態、光周期、化学物質(フェロモンや天敵由来のキアロモン)などがセンサーで検出される。
  • シグナル伝達とホルモン応答:感知された情報は神経や内分泌系を介して伝えられ、エンドクリンなホルモン変動(昆虫のジュブナイルホルモンやエクジソン、脊椎動物の性ステロイドなど)が発現プログラムを切り替える。
  • 遺伝子発現とエピジェネティクス:転写因子や非翻訳RNA、DNAメチル化やヒストン修飾などのエピジェネティックな変化により、遺伝子ネットワークのオン/オフが制御される。これにより同一ゲノムから異なる発現パターンが生まれる。
  • 臨界期間(感受性ウィンドウ):多くの多形性は発生の特定段階に感受性が集中しており、その時期にかかる環境条件が最終的な形質を決定する。場合によっては可逆的なもの(例:トビイロなどの相変異)もある。

代表的な例

  • 温度依存性の性決定(TSD):ワニや多くのカメ類では、受精卵が発生する温度が雄雌比を決定する。つまり、遺伝的な性染色体に頼らず温度が発達のスイッチとなる。例えば、特定の温度帯で雌が多く生まれるなどのパターンが知られている(ワニの性決定はこの典型)。
  • 社会性昆虫のキャスト決定:アリやハチでは、幼虫期の栄養状態や巣内ホルモン・フェロモン環境によって労働者・兵隊・女王などが分化する。栄養や社会的シグナルがエピジェネティックな調節を引き起こし、明瞭に異なる成体形質を生む。
  • バッタの相変異(locust phase polyphenism):個体密度の増加が神経伝達物質(セロトニン等)や行動、形態、生理を劇的に変え、孤立相(solitarious)から群生相(gregarious)へと移行する。これらは可逆的に変化する。
  • 季節形(季節多形):気温や光周期の違いにより、チョウ(例:Bicyclus属など)で翅の模様や色彩が季節ごとに変わることがある。これは捕食や繁殖戦略と関連する適応的な変化である。
  • 捕食者誘導形態:ミジンコ(Daphnia)などは捕食者の化学物質を感知して、頭部や背部に防御突起を発達させる。このような誘導防御は外敵の存在に応じて発現する。
  • 性転換(順次雌雄同体):一部の魚類では個体群の社会構造に応じて性別が変わる(例:クマノミなど)。これは社会的環境が性決定のスイッチとなる例で、広義の多形性に含められることがある(社会的手がかりで性が可変な点で、通常の性連鎖では説明されない)。

多形性と可塑性の区別

「表現型の可塑性(phenotypic plasticity)」は環境に応答して連続的に変化する性質を指すことが多いのに対し、ポリフェニズムは環境に応答して生じる離散的で区別しやすい複数形を強調する用語である。ただし両者は連続的な概念上にあり、二者を厳密に切り分けられない場合もある。重要なのは、ポリフェニズムでは「同一の遺伝子型が複数の明確な発現型を持ち得る」点である。

進化的・応用的意義

多形性は環境変動に対する柔軟な適応戦略を提供する。特に以下の点が注目される。

  • 環境適応:環境の変化に応じて適切な形質を選ぶことで生存や繁殖成功が向上する。
  • 多様性の源泉:一つの遺伝背景から多様な表現型を生むことで、個体群の生態的ニッチの拡大や種内競争の回避に寄与する。
  • 保全と気候変動:気温などの環境因子に依存する多形性(例:TSD)は、地球温暖化によって性比が偏るなどのリスクを抱えるため、保全対策で重要な検討対象となる。
  • 農業・防疫への応用:害虫の相変異や社会性昆虫の分化機構を理解することで、発生段階やシグナルを標的にした防除戦略が考案され得る。

研究上の注目点と今後の課題

現在の研究では、感覚入力からエピジェネティックな遺伝子発現変化へと至る詳細な分子機構の解明が進められている。特に、温度などの物理的要因がどのようにして特定の遺伝子(例:性分化に関与する酵素や転写因子)の発現を誘導するか、またその変化が世代を超えて伝わり得るか(エピジェネティックな遺伝)などが重要課題である。さらに、人為的環境変化が自然界の多形性に与える影響と、その生態系サービスへの波及も注目されている。

要するに、ポリフェニズムは同一ゲノムから環境によって複数のはっきりとした形が生まれる現象であり、その理解は発生生物学、進化生物学、保全生物学および応用科学において重要な位置を占めている。多形性は生物が環境に適応するための普遍的な戦略の一つである。

また、ポリフェニズムは発達上のスイッチを個体が受け継いだときに起こる。このスイッチは、何らかの環境的な手がかりや引き金に敏感である。例えば、ワニの性別は気温によって決定される。ワニの性別は多面的形質であり、通常の性連鎖では決定されない。

白樺(左)と柳(右)に発生したBiston betulariaの毛虫で、色の多面性を示す。Zoom
白樺(左)と柳(右)に発生したBiston betulariaの毛虫で、色の多面性を示す。

その他の例

昆虫のカースト制度

社会性昆虫のカースト制度は、遺伝的に同一な個体間の分業である。幼虫が女王になるか、働き手になるか、場合によっては兵隊になるかは、ポリフェニックスによって決まる。アリ(P. morrisi)の場合、胚が生殖活動を行う女王になるためには、ある温度と光周期の条件下で発育する必要がある。これにより、交尾の時期をコントロールすることができるが、性決定と同様に、特定の気候への種の拡散を制限している。ミツバチでは、働きバチが与える「ローヤルゼリー」によって幼虫が女王蜂になる。ローヤルゼリーは、女王蜂が高齢になったときや死亡したときにのみ作られる。

季節の移り変わり

ポリフェノール色素は、年に数回繁殖する種にとって適応的である。季節ごとに異なる色素パターンでカモフラージュを行い、気温の変化に応じて保温性を変化させる。昆虫は成虫になると成長・発達が止まるため、成虫のときに色素パターンが決まってしまう。コショウガの仲間であるBiston betulariaの場合、イモムシはポリフェノールを持つ。彼らのトリガーは、食べている植物の色によって切り替わる:こちらをご覧ください。

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ジュノニア・アルマナ、雨季型(上側)

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ジュノニア・アルマナ 乾季型(上側)

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ジュノニア・アルマナ、雨季型(下側)

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ジュノニア・アルマナ 乾季型(下側)



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