アクシアル・エイジ(軸の時代)とは|ヤスパース提唱の定義・起源と世界史的影響
ヤスパース提唱の「アクシアル・エイジ(軸の時代)」の定義・起源と各地で同時発生した宗教・哲学の世界史的影響を図解で解説。
Axial Age(アクシアル・エイジ、ドイツ語Achsenzeit)とは、ドイツの哲学者カール・ヤスパースが考案した言葉である。紀元前8世紀から3世紀にかけての古代史を指す。人類史の転換期を意味するという。
イラン、インド、中国、そしてグレコローマン世界では、新しい考え方が登場した。新しい宗教と哲学が生まれたのである。しかも、それらはユーラシア大陸を横断して、明らかに接触することなく、並行して起こった。
概説とヤスパースの主張
アクシアル・エイジは、カール・ヤスパースが「歴史の大転換点」として位置づけた時期で、彼は著作の中でこの時代における思想的・宗教的な革新がその後の世界史に決定的な影響を与えたと論じた。ヤスパースは、紀元前8世紀ごろから紀元前3世紀ごろまでの間に、複数の地域で同時並行的に倫理・宗教・哲学の革命が起きたと見なした。
代表的な思想家・運動(一例)
- インド:釈迦(ブッダ)、ジャイナ教の教祖など、輪廻や解脱、倫理の再定義をもたらした思想。
- 中国:孔子・孟子・老子・荘子など、倫理、礼、道(タオ)をめぐる体系化。
- イラン(イラン高原):ゾロアスター教的伝統(ザラトゥストラ)に連なる宗教的・倫理的変化。ただし預言者の正確な年代には議論がある。
- 地中海世界(グレコローマン):ソクラテス、プラトン、アリストテレスらによる理性の強調と市民倫理の探究、ユダヤ教の預言者群による倫理的モノテイズムの展開。
アクシアル・エイジの特徴
- 倫理と普遍的価値の強調:個人の道徳や普遍的な正義を重視する思想が顕著になる。
- 内省と自己変革の志向:自己の内面を問い直し、個人の精神的成長や解放を目指す宗教・哲学が台頭。
- 理性と批判的思考の発展:論理的な議論や理性的検討を重視する学問的態度が形成される。
- 超越的存在や普遍法則への注目:神や道、法といった超越的原理を通じて世界や人間を説明しようとする試み。
世界史的意義と影響
ヤスパースが指摘したように、アクシアル・エイジ期の思想は後世の宗教・倫理・政治思想に深く根を下ろした。例えば、倫理的モノテイズムや普遍的倫理観、個人の責任や市民的美徳の概念は、後の宗教改革や近代思想、さらには現代の道徳観や法制度にまで影響を及ぼしたと考えられている。これらの変化は単に宗教の数が増えたというよりも、人間の自己理解や社会の正当性の根拠が変化した点に重要性がある。
研究上の議論と批判
- 時代区分の恣意性:どの地域・どの思想を「アクシアル」に含めるかは研究者によって異なり、選択バイアスが指摘される。
- 独立並行発生の仮定への疑問:地域間の接触が完全になかったとは言えず、文化的影響の可能性を無視するべきではないという反論がある。
- 単一の「革命」としての過度な一般化:多様な地域的・社会的条件をまとめて一本の「革命」として扱うのは、歴史の連続性や差異を見落とす恐れがある。
- ユーロセントリズム/地域中心主義の批判:西洋中心の見方に偏る危険や、逆にアジア中心の読み替えのいずれも注意が必要である。
研究方法と資料
アクシアル・エイジの研究は、古典文献(経典・史書・哲学テクスト)の比較、考古学的発見、言語学的分析などを組み合わせて行われる。文献の編年や伝承の成立過程を慎重に見極めることが重要で、単純な同時性の主張に頼るだけでなく、地域ごとの社会構造や経済条件の変化も合わせて検討される。
現代への含意と再検討
現代の思想史・比較宗教学・世界史学では、アクシアル・エイジという枠組みは有用な出発点を与える一方で、その単純化や普遍化に対する批判的再検討も進んでいる。近年は「複数のアクシアル期」や「長期的変化(long durée)」の視点から、より細かな時代区分や地域間の相互作用を重視する研究が増えている。
参考・補足
アクシアル・エイジについて理解を深めるには、まずカール・ヤスパースの主要著作(ドイツ語による原著や日本語訳『歴史の起原と目標』など)に当たり、その後に比較宗教学や世界史の概説書で地域別の一次資料・二次資料を参照するとよい。学術的には賛否両論がある主題なので、複数の立場からの論考を読むことを勧める。
何だろう
インドではウパニシャッドとブッダが生まれ、中国と同様に唯物論、懐疑論、ニヒリズムに至るまで哲学のあらゆる可能性を追求した。イランではツァラトゥストラが善と悪の戦いという挑戦的な世界観を説き、パレスチナではエリヤからイザヤ、エレミヤを経て申命記へと預言者が登場し、ギリシャではホメロス、哲学者のパルメニデス、ヘラクレイトス、プラトン、悲劇家のトゥキディデス、アルキメデスが登場する。この数世紀の間に、中国、インド、西洋では、これらの名称が意味するすべてがほぼ同時に発展した。
- カール・ヤスパース『歴史の起源と目標』p.2
質問と回答
Q: 軸時代とは何ですか?
A: 軸時代とは、人類史の転換期であった紀元前8世紀から3世紀にかけての古代史を表す言葉です。
Q: 軸時代という言葉は誰が作ったのですか?
A: Axial Ageという言葉は、ドイツの哲学者カール・ヤスパースによって作られました。
Q: 枢軸時代の影響を受けた主な地域は?
A: イラン、インド、中国、そしてグレコローマン世界です。
Q: 枢軸時代に起こった変化にはどのようなものがありますか?
A:枢軸時代には、新しい考え方、新しい宗教、哲学が生まれました。
Q: 軸時代の影響を受けた地域の人々は、お互いに接触していたのでしょうか?
A: 軸時代の影響を受けた地域の人々は、お互いに明らかな接触を持っていなかったと考えられています。
Q: カール・ヤスパースの言う人類史の転換点とはどういう意味ですか?
A: カール・ヤスパースの言う「転換期」とは、人類の歴史において、人々の考え方や宗教・哲学への取り組み方が大きく変化した時期のことです。
Q:枢軸時代の人類史的意義とは?
A: 人類の歴史における枢軸時代の意義は、ユーラシア大陸の複数の地域において、知的・精神的に大きく発展した時期であったということです。
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