『収容所群島(アーキペラゴ・グラーグ)』(ロシア語: Архипелаг ГУЛАГ)は、アレクサンドル・ソルジェニーツィンによる全3巻からなる長大なノンフィクション作品です。本書は、1930年代から1950年代にかけてソビエト連邦で運営された強制労働収容所(収容所)の実態を、歴史的事実、公式文書、元囚人の証言、著者自身の体験を織り交ぜて描いています。これらの収容所はソ連体制の抑圧の一側面を示すもので、広範な人権侵害と大量の強制労働を伴っていました。
ソルジェニーツィンは実際に収容所の囚人としての経験があり、その体験と多数の聞き取り・資料収集を基に、1958年から1968年にかけて本書を書き上げました。完成後もソ連当局の検閲により公刊は困難で、国内では主にサミズダット(非公式な複製・回覧)として流布しました。一方、欧米では1973年にロシア語原稿が出版され、国際的に大きな反響を呼びました。著作は作者の告発精神と詳細な資料提示により、世界的な注目を集め、ソルジェニーツィンは1970年にノーベル文学賞を受賞、1974年にはソ連から国外追放されました。
書名にあるarchipelago(群島)という語は、個々の収容所を島に見立て、それらが広大な領域にわたって有機的に連なりつつ一つの抑圧システムを形成しているという比喩です。著者はこの比喩を用いて、収容所網が単なる孤立した収監施設の集合ではなく、国家機構の中で制度的に組み込まれたシステムであったことを強調しています。
冷戦期において本書は西側でソ連体制の人権侵害を知らせる決定的な証言の一つとなり、歴史研究・人権運動・文学の分野で長く影響を与えました。ソビエト連邦の崩壊後、ロシア連邦では社会的評価が再検討され、教科書や読書リストに取り上げられるようになりました。教育現場での扱いは時期や地域によって差がありますが、2000年代以降は学校の文学・歴史教育で重要な位置を占めることが増え、2009年以降には高校生向けの読書リストや学習指導の対象として広く認識されるようになりました(地域・年代により導入状況は異なります)。
内容面では、書簡・裁判記録・収容所関係者の証言などを多用することで、個々のエピソードが制度全体の構造と結びつけて提示されている点が特徴です。そのため史料価値が高く、文学的表現と歴史的検証を兼ね備えた作品として、戦後史理解や人権教育の重要な資料とされています。