サーストン・ダート(Thurston Dart、1921年9月3日生まれ - 1971年3月6日没)は、イギリスの音楽学者、指揮者、鍵盤奏者であり、特に「どのように古い音楽を演奏すべきか」をめぐる論考と実践で知られる人物です。学問と演奏活動を往還しながら、20世紀中葉の初期の音楽リバイバル(歴史的演奏法の復興)を推進した先駆者の一人でした。
略歴
ダートは1938年から1939年までロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックで鍵盤楽器の研鑽を積み、その後エクセターのユニバーシティ・カレッジで数学を学び、1942年に卒業しました。卒業後は学術と教育の道に進み、ケンブリッジ大学で音楽講師、後に教授となり、研究・教育・演奏の三方面で活動しました。後にロンドン大学(キングス・カレッジ)のキング・エドワード音楽教授に就任しています。
演奏と業績
演奏家としてのダートはチェンバロを中心に多くのコンサートで活躍し、当時としては先駆的に歴史的楽器や当時の奏法を意識した演奏を行いました。蓄音機による録音もいくつか残しており、演奏史研究と実演の橋渡しをする立場で多数の録音・公演に関わりました。特に、バッハのブランデンブルク協奏曲を歴史的な楽器編成で録音した最初期の例の一つとして知られています。
著作・編集
ダートは演奏と研究を結びつける著作活動でも評価されます。代表的な著書に『音楽の解釈 (The Interpretation of Music, London, 1954)』があり、演奏家や研究者の間で広く読まれました。また、学術雑誌や音楽誌にも多くの記事を寄稿し、古楽のスコア校訂や版の編集にも携わるなど、演奏実践に基づく編集・出版活動を通して初期音楽研究の基盤づくりに貢献しました。
教育と影響
教育者としての業績も大きく、多くの有能な弟子を育てました。後に国際的に活躍する作曲家や指揮者、演奏家たちを指導し、その中にはマイケル・ナイマン、サー・ジョン・エリオット・ガーディナー、指揮者・音楽学者クリストファー・ホグウッドなど、多数が含まれます。ダートの教学は、楽譜に書かれている文字だけでなく当時の演奏慣習や文献的根拠を重視する点が特徴で、現代の歴史的演奏法(Historically Informed Performance)の形成に大きな影響を与えました。
遺産
サーストン・ダートは短い生涯の中で、学術研究と現場の演奏を結びつけるモデルを提示しました。彼の著作・録音・教育を通じて、20世紀後半の古楽運動は実践的な方向へと発展し、今日の歴史的演奏法に不可欠な視点を残しました。現代の古楽演奏や音楽学の研究において、彼の影響は今なお続いています。
- 主な著作:『音楽の解釈』(The Interpretation of Music, 1954) ほか多数の論考
- 主な業績:チェンバロ演奏、歴史的楽器による録音、スコア校訂、教育(多くの著名な弟子を育成)

