ピリオド楽器は数百年前の楽器と同じように、昔の音楽が作曲された時に使われていたような音になるように作られた楽器です。
楽器は過去数世紀の間に大きく変化しました。ヨハン・セバスチャン・バッハ(1685-1750)のような作曲家は、現在とは異なる響きの楽器のために音楽を書きました。現在私たちが使用しているオーケストラ楽器のほとんどは、バッハの時代にはすでに使用されていましたが、楽器メーカーはそれらに変更を加えてきました。このような変更は、大きなコンサートホールでもよく聞こえるように、楽器に大きな音を与えることが多かったのです。また、オーケストラの規模も大きくなりました。
20世紀の間に、音楽家たちは、バッハをはじめとする過去の作曲家の音楽を演奏する方法が、音楽を最初に聴いた時とはかなり違った音にしていることに気付き始めました。人々は、17世紀から18世紀初頭(バロック時代)の音楽がどのように聞こえていたかに興味を持つようになりました。昔の楽器はまだほとんど存在しておらず、生き残った楽器は「近代化」されていました。そのため、楽器メーカーは昔ながらの方法で楽器を作り始めました。そして、これらの楽器を演奏する音楽家やオーケストラも出てきました。これらの楽器は、歴史の古い時代の楽器に似せて作られていることから、「ピリオド楽器」(または「本格的な楽器」、「歴史的な楽器」)と呼ばれることが多いです。
ピリオド楽器の定義と目的
ピリオド楽器とは、特定の歴史的時代(主にバロック、古典派、あるいはそれ以前)に用いられていた構造・素材・製作法・奏法を再現した楽器です。目的は、当時の作曲家が想定した響きや音量、演奏表現に近い音を現代に再現することにあります。単に「古い形を真似る」だけでなく、弦や管の材質、弓の形、鍵盤楽器のアクション、調律・平均律の違いなどを総合的に再現する点が重要です。
主な特徴
- 素材と構造の違い:弦楽器は現在の金属弦ではなくガット(羊腸)弦を使うことが多く、ネック角度や指板の長さ、胴体の厚みなども異なります。これにより音色は柔らかく、倍音のバランスが変わります。
- 弓の形状:バロック弓は現代の弓よりも短く、曲線や張りが異なるため、アーティキュレーション(音の切り方)やフレージングが変わります。
- 管楽器の構造:フルートは竹や木製でキーが少なく、オーボエやファゴットも当時のキー配置を再現します。金管楽器は自然(無孔)トランペットやホルンが用いられ、特殊な奏法(唇の利用で音程を変える)が必要です。
- 鍵盤楽器:チェンバロやクラヴィコード、初期のフォルテピアノ(フォルテ・ピアノ)など、現在のピアノとはタッチや発音原理が異なります。チェンバロは弦をはじくため持続音が短く、装飾やアルペジオの表現が重要になります。
- 音量とバランス:個々の楽器の音量は現代楽器に比べて小さめなことが多く、室内的な響きや声部の明瞭さを重視するアンサンブルになります。
バロック期の音色を再現するための要素
バロック期の音を再現するには、楽器自体の再現だけでなく、調律(ピッチ)や平均律の種類、奏法(ヴィブラートの使用、装飾音、フレージング)、そして通奏低音(バッソ・コンティヌオ)の実践が重要です。
- ピッチ(標準音高):現代の標準はA=440Hz前後ですが、バロック演奏ではA=415Hz(約半音低い)やA=392Hz、さらに地域や時代によって様々な基準が用いられていました。ピッチが低いことで音の色合いが変わり、古典的な響きが得られます。
- 調律法(平均律):平均律(均等平均律)が普及する以前には、平均律とは異なる「純正調」や「平均律以前の温度(ミーン・トーン等)」が使われることが多く、これが和声の色彩に影響します。
- 通奏低音(バッソ・コンティヌオ):チェンバロやオルガン、リュートなどが和音の輪郭を支え、チェロやヴィオラ・ダ・ガンバが低音を補強する演奏形態です。実演では即興的な和音和声の補完(リアリゼーション)が行われます。
- 装飾と即興:トリルやモルデントなどの装飾は当時の慣習に従って演奏者が付加・解釈します。楽譜に書かれていない装飾を加えることも一般的でした。
具体的な楽器例と奏法の違い
- ヴァイオリン類:ガット弦+バロック弓→明瞭な立ち上がり、短めのサステイン、異なるサウンドスケープ。
- チェロ・ヴィオラ:胴の形や弦の張力の違いで音色が異なり、ヴィオラ・ダ・ガンバのような消え入る音色が得られる楽器も使われます。
- フルート・オーボエ:キー数が少なく、指使いと音色が異なります。フルートは木製で柔らかく丸い音。
- トランペット・ホルン:バロック・ナチュラルトランペットはバルブがないため、奏者の唇によるハーモニクス制御が重要で、華やかな高音域が特徴。
- チェンバロ・クラヴィコード:ダイナミクス表現は限られますが、和声の明瞭性や装飾の精度が際立ちます。フォルテピアノは初期のダイナミクス表現を可能にしました。
演奏形態・解釈上の違い
ピリオド楽器を使った演奏(いわゆる歴史的演奏法、HIP: Historical Performance Practice)は、テンポ感、アーティキュレーション、装飾、ヴィブラートの頻度などが現代奏法と異なります。一般にヴィブラートは持続的に使わず、必要に応じて効果的に用いられます。フレーズごとの語り(話し方)や、対位法の明瞭さを重視するため、音の立ち上がりや切れをはっきりさせる演奏が多く見られます。
歴史的楽器の復元と現代のレプリカ
当時の楽器は現存するものが少なく、現代の製作家は文献・図面・残存楽器の検証をもとにレプリカを制作します。復元に当たっては、材料や製作法の忠実さ、実用性(演奏や耐久性)をどの程度重視するかが議論になります。オリジナルを修復して使う場合もあれば、レプリカを新たに制作して演奏に使う場合もあります。
どのように違いを聴き分けるか(聴き方のヒント)
- 音色:金属的・明瞭な倍音よりも、暖かく柔らかい音が多い。
- アタックと減衰:音の立ち上がりがはっきりし、持続は短めで消え方が異なる。
- アンサンブルのバランス:声部ごとの輪郭が明瞭で、小規模な編成でも豊かな表現が可能。
- 装飾の有無:記譜されていない装飾が多く、即興的なニュアンスを探すと発見がある。
現代における受容と主な流れ
20世紀半ば以降、歴史的演奏法の研究と実践は急速に進み、多くの録音・公演が行われています。オーケストラや室内楽団体の多くがピリオド楽器編成による演奏を行い、バロックや古典派作品の新たな解釈が提示されています。これにより聴衆も多様な音楽体験を得られるようになりました。
まとめ
ピリオド楽器は、単なる「昔風の見た目」ではなく、素材・構造・調律・奏法を通して当時の音楽表現を再現しようとする試みです。バロック期の音色を求める場合、楽器そのものだけでなく、演奏慣習や調律、アンサンブルの規模など総合的な要素が絡み合って成果が生まれます。初めて聞くと違いが小さく感じられることもありますが、注意深く聴けば音色・表現・和声の響きの違いがはっきりわかるようになります。