ブラジルは1985年のディストピアSF映画で、独特のヴィジュアルとブラックユーモアで官僚主義と全体主義を風刺した作品です。監督はテリー・ギリアムで、映像表現やプロダクションデザインに強い個性が表れています。

物語の中心はサム・ローリーという名の平凡な男性で、夢に現れる謎の女性を追い求めるうちに、大きな官僚機構の矛盾と暴力に巻き込まれていきます。主人公サムは日常的には単調で抑圧された職場に従事し、狭いアパートに暮らす普通の人間として描かれますが、夢想や逃避の中で自由を渇望します。舞台となる世界は、荒廃しかけた機械と紙の書類、無機質なオフィス群に支配されたディストピアで、細部まで作り込まれたレトロフューチャーの美術が特徴です。

主役はジョナサン・プライスで、助演にはロバート・デ・ニーロ(印象的な脇役で強烈な存在感を示す)、キム・グライスト、マイケル・ペイリン、キャサリン・ヘルモンド、ボブ・ホスキンス、イアン・ホルムが出演しています。脚本はギリアム自身に加えチャールズ・マッキウン、トム・ストパードらが手がけ、シニカルで寓意的な物語構成が取られています。

ブラジルは、その風刺性からしばしば官僚的で全体主義的な体制の批評と見なされ、ジョージ・オーウェルの『Nineteen Eighty-Four』に例えられることも多い作品です。また、カフカエスクであるとか、不条理主義と結び付けて語られることもあり、その寓話的な語り口と視覚的過剰さが観る者に強い印象を残します。

作品タイトルは、テーマ曲として頻繁に使われるアリー・バローゾの「Aquarela do Brazil」(通称「Brazil」)に由来します。陽気でブラジル音楽らしいこの楽曲が、映画の陰鬱で抑圧的な世界と対照を成すことで、アイロニーと皮肉が一層際立ちます。

公開当初、この映画はヨーロッパでは批評的にも商業的にも支持を得ましたが、北米での最初の公開版は配給側による編集の違いなどで論争を呼び、当初は商業的に振るわない時期もありました。以後、独特の世界観と熱心な支持者によって次第にカルト映画としての評価を確立していきます。製作過程では配給会社との間で最終カットを巡る対立があり、旧劇場公開版(配給側編集)とギリアム監督の意図した版では結末やトーンが異なる

作品の評価は時間とともに高まり、1999年には英国の映画協会が発表した「史上偉大な英国映画」リストで54位に選ばれ、2017年にはタイムアウト誌による英国映画ランキングで24位にランクインしました。批評家や映画作家からはその映像言語、プロダクションデザイン、風刺の力が高く評価され、後のサイエンスフィクションやディストピア表現にも影響を与えました。

現在では複数の版がソフトや上映で流通しており、監督版(いわゆる「ラブ・コンクァーズ・オール」的な終幕を含む版)を好むファンが多い一方で、劇場公開版も含めた比較研究やディスカッションが盛んです。映像美術、音楽の使い方、風刺性の強さから、映画史上の重要作として引き続き論じられています。