チェスにおけるマスターとは、チェスの世界統括団体であるFIDE、または各国のチェス連盟が正式に与える称号を受けたプレイヤーを指します。以前は「エキスパート」や「強豪」といった一般語で使われていましたが、現在はレーティングや成績に基づく公式な資格(称号)として定義されています。称号には、実力の目安となるレーティング要件や大会での「ノルム(規定ペフォーマンス)」の取得など、明確な基準が設けられています。
グランドマスター(GM)は、さらに高い基準を満たしたトップクラスのプレイヤーに与えられる最上位の称号です。この「グランドマスター」という語は中世フランス語の語形grand maîtreに由来し、元来は騎士団の長に用いられた称号でした。たとえばテンプル騎士団やチュートニック騎士団の長が「グランドマイスター」と呼ばれた史料があります。チェスで「グランドマスター」という語が用いられた最初期の例は定期刊行物「ベルズライフ」(1838年2月18日号)で、そこではウィリアム・ルイスを「我々の過去のグランドマスター」と称しています。p156
FIDEの公式称号と主な種類
- Grandmaster(GM):最高位の称号。通常は複数のGMノルム(規定の大会成績)と、規定のFIDEレーティング(通常2500以上)到達が必要です。
- International Master(IM):GMの一つ下に相当する国際称号。ノルム取得と2400程度のレーティングが基準になることが多いです。
- FIDE Master(FM):主にレーティングによる称号(おおむね2300以上)で、ノルムは不要な場合が多いです。
- Candidate Master(CM):さらに下位の称号で、主にレーティング基準(おおむね2200)が用いられます。
- 上記に加えて、女性専用の称号としてWoman Grandmaster(WGM)、Woman International Master(WIM)、Woman FIDE Master(WFM)、Woman Candidate Master(WCM)などがあります。これらは女性プレイヤーの参加促進を目的に設けられており、求められるレーティングやノルムの基準は対応する一般称号より緩やかです(例:WGMはおおむねWGM規準=2300程度のレーティングが目安)。
- 最近ではオンライン大会向けのアリーナ称号やユース向け称号など、複数の細分化された称号制度も存在します(適用範囲や条件はFIDEの規定によります)。
ノルム(norm)とレーティングの仕組み
称号取得には通常、次の2要素が必要です。
- ノルム(大会での成績):国際大会での対戦相手のレーティング構成、ラウンド数、対局者の国籍・称号の割合などが規定を満たす必要があります。GMノルムならば大会でのパフォーマンス評価(パフォーマンスレーティング)が高水準(概ね2600相当)であることが求められます。通常、GMやIMでは「3つのノルム」を満たすことが条件となることが多いです。
- 規定のFIDEレーティング到達:たとえばGMならば一時的にでも2500以上のFIDEレーティング到達が要求されるのが通例です。レーティング基準は称号ごとに定められています。
ノルムは「標準の持ち時間(クラシック=通常の)で行われた大会」でのみ認められること、またノルム取得時の対戦相手や大会フォーマットに細かなルールがあることに注意してください。
称号の授与手続きと有効性
- 称号は通常、プレーヤーの国際棋戦成績をリージョンやナショナル連盟がFIDEに申請し、FIDEの審査委員会(タイトル委員会)が認定して授与されます。
- 一度授与された称号は基本的に終身で有効です。例外的に不正(不正行為・チェスの不正)や書類不備などが判明した場合に取り消されることがありますが、取り消しは稀です。
歴史の概略と補足
- FIDEは1924年に創設され、国際チェスの統括組織として世界選手権の運営やタイトル制度の整備を行ってきました。公式の国際称号制度が整備されたのは20世紀中頃以降で、戦後の国際大会の拡大に伴い称号基準やレーティング制度が定められていきました。
- レーティング制度(Eloレーティング)は、プレーヤーの実力を数値化する手段として導入され、FIDEは20世紀後半にこれを取り入れて順位付けと称号基準に利用しています。レーティング導入により、称号基準やランキングがより客観的になりました。
- 「グランドマスター」という語のチェス界での初出は、先に触れた「ベルズライフ」の例のように19世紀にさかのぼりますが、現在のような公式称号として広く定義・運用されるようになったのは近代のFIDEによる整備以降です。
現代における意義と問題点
称号は選手の実力を示す重要な指標であり、プロ棋士としての活動や大会招待、スポンサー獲得などに影響します。一方で、以下のような課題もあります。
- ノルムや大会参加の機会は地域差があり、活発な大会環境を持つ国とそうでない国で称号獲得のしやすさに差が出ること。
- オンライン対局や急速に変化する大会形態に対して、伝統的な称号規程の適用や更新が必要になる点。
- 不正行為(禁じ手や不正な補助)の発覚時の取り消し・処罰の扱いなど、公平性の維持に関する問題。
まとめ(ポイント)
- マスター/グランドマスターは、かつては漠然とした「強豪」を指す言葉でしたが、現在はFIDEや各国連盟が定める公式称号となっています。
- 称号獲得には「ノルム」と「規定レーティング到達」が基本要件で、GMは最も高い基準を満たす必要があります。
- 称号は原則終身有効ですが、申請とFIDEの審査を経て授与されます。
- 女性向けの別枠称号も存在し、女性棋士の参加促進に寄与しています。
さらに詳しい規定(ノルムの細則、具体的なパフォーマンスレーティング値、最新のFIDE規定など)を確認する場合は、FIDEの公式規定や各国連盟の案内を参照してください。