アレクサンドル・エティエンヌ・ショロン(Alexandre Étienne Choron, Caen, 1837 - 1924)は、フランスの著名なシェフです。パリ、サントノレ通りの名門レストラン「ヴォワザン(Voisin)」の料理長を務め、フレンチのソースの一つである「チョロンソース」を考案したことで知られています。チョロンソースは、ベアルネーズソースをベースにトマト(濃縮トマトやトマトペースト)を加えたバリエーションで、濃厚でコクのある味わいが特徴です。
経歴と料理観
ショロンは地方出身ながらパリでキャリアを築き、ヴォワザンを代表するシェフとして名を馳せました。伝統的なフランス料理の技法を踏まえつつ、食材やソースのアレンジで独自の風味を出すことを得意としました。チョロンソースのように、既存のソースに新たな素材を組み合わせる発想は、当時のパリの上流階級や美食家たちに評価されました。
1870年のパリ包囲と“ヴォワザンの饗宴”
1870年9月19日に始まったプロイセン軍によるパリ包囲(普仏戦争の一環)の期間中、食料不足は深刻な問題となり、都市部の人々は猫や犬、ネズミなどを食べなければならない状況に追い込まれました。一方で、富裕層や高級レストランに足を運べる層は、いわば「卑しい動物を避ける」傾向があり、ヴォワザンのような名店には客が集まり続けました。食材の備蓄が尽きかけると、いくつかの高級レストランは動物園や植物園から得られる“エキゾチック”な食材を用いた即席のメニューを考案しました。
ヴォワザンのチョロンが作り出した、その時期に伝説化したメニューの一例は以下の通りです(当時の紹介や回顧記に基づく報告を要約)。ワインはムートン・ロートシルト1846年、ロマネ・コンティ1858年、シャトー・パルマー1864年といった高級ヴィンテージが並びました。
- ロバの頭の剥製
- 象のコンソメ(象のスープ)
- ラクダのロースト
- カンガルーのシチュー(のシチュー表記は当時の記録に基づく)
- 熊のすね肉の胡椒ソース焼き
- 狼の鹿肉ソース煮(狼肉や鹿肉を組み合わせたとされる料理)
- 猫とネズミ(当時の食卓に並んだとされる食材)
- カモシカのトリュフソース煮
特にショロンは象肉料理で評判を呼びました。メニューにはエレファントのトロンプ(象の鼻)・デレファントのソース・シャスール煮やエレファント・ブルギニョンといった名称が残されています。クリスマスの食卓では、ジャルダン・ダク(Jardin d'acclimatation)の飼育動物が供されたと伝えられ、さらに1870年12月31日にはヴォワザンでパリの動物園から運ばれた2頭の象(カスターとポルックス)が消費されたとする伝聞があります。さらに1月初旬には植物園(ジャルダン・デ・プラント)の象が食肉処理場(アバトワール)へ送られ、チョロンがレストラン用に「1ポンド15フラン」で購入したという記録も伝わります。
ヴォワザンは1871年1月13日まで象肉を供給し、その後は馬肉で代用したとされ、包囲はその約2週間後に解除されました(包囲解除は1871年1月下旬)。こうしたエピソードは、戦時下のパリの食文化と上流社会の矛盾を象徴する出来事として歴史的に語られています。
評価と遺産
ショロンはその独創的なソースや料理法、そして極端な状況下での“美食”の提供によって名を残しました。チョロンソースは今日でもフレンチの一品として知られ、ショロンの名前は料理史上の興味深い逸話(特に1870年のパリ包囲にまつわる話)とともに語り継がれています。

