代替スプライシングとは?定義・仕組み・種類と疾患との関係
代替スプライシングの定義・仕組み・種類と疾患への影響をわかりやすく解説。エクソンスキップや病態連関、最新知見まで網羅。

定義:代替スプライシングとは
代替スプライシング(オルタナティブスプライシング)は、一つの遺伝子から複数の異なる成熟転写物(アイソフォーム)を作り出すプロセスです。具体的には、メッセンジャーRNAの前駆体であるプレメッセンジャーRNAのエクソンとイントロンの組み合わせが、細胞や発生段階、刺激の状態に応じて変化します。これにより、同じ遺伝子配列から異なるタンパク質が翻訳され、タンパク質の構造や機能の多様化が生じます。
仕組み(分子機構)
プレmRNAのスプライシングはスプライシーソームという巨大リボヌクレオタンパク複合体によって行われます。スプライシーソームは複数のsnRNP(U1, U2, U4/U6, U5など)と補助因子から構成され、以下のシグナル配列を認識します。
- 5'スプライス部位(ドナーサイト)
- ブランチポイント配列(分岐点)
- ポリピリミジン(T/U)トラック
- 3'スプライス部位(アクセプターサイト)
これらに加え、エクソン/イントロン内のエクソニック・スプライシング・エンハンサー(ESE)やスプライシング・サイレンサー(ESS)、イントロン中のISE/ISSなどのシス要素が存在し、SRタンパク質などのスプライシングアクチベーターや、hnRNPなどのスプライシングリプレッサーが結合して部位利用を促進または抑制します。
代替スプライシングの種類
- エクソンスキッピング(カセットエクソン):最も一般的。あるエクソンが含まれるアイソフォームと省略されるアイソフォームが生じる。
- 相互排他的エクソン:同じ位置で2種類以上のエクソンのうちどれか一つだけが選ばれる。
- 代替5'スプライス部位/代替3'スプライス部位:スプライス点が5'または3'方向に移動し、短縮または延長されたエクソンが生成される。
- イントロン保持(イントロンリテンション):本来除去されるイントロンがmRNAに残ることで、翻訳産物やRNAの安定性に影響を及ぼす。
- 代替プロモーター/代替ポリアデニル化部位との組合せ:転写開始点や終結点の違いがスプライシングと連動して異なるアイソフォームを作る。
regulation — 調節因子と環境要因
代替スプライシングは組織特異的、発生段階特異的に制御されます。主な調節要因は次のとおりです:
- スプライシング因子(SRタンパク質、hnRNPなど)の発現レベルや翻訳後修飾
- RNA二次構造(特定部位への因子結合を阻害または促進)
- 転写伸長速度:ポリメラーゼの速度が速いと近位スプライス部位の利用が変わることがある
- クロマチン修飾やヒストンマーク:スプライシング因子のクロマチンへのリクルートを通じて影響
- 細胞シグナル(ホルモン、ストレス、シグナル伝達経路)
生物学的意義・進化的意義
代替スプライシングはゲノムあたりのタンパク質多様性を飛躍的に高めます。ヒトではマルチエクソニック遺伝子の約95%が代替スプライシングを行うとされ、組織特異的機能、細胞間相互作用、発生過程の微調整などに重要です。
疾患との関係
スプライシングの誤りや異常な調節は多くの疾患の原因または進行因子となります。以下は代表的な例です:
- 遺伝性疾患:スプライス部位やESE/ESSに生じた変異により正常なスプライシングが阻害される。たとえばβサラセミアの一部はβグロビン遺伝子のスプライス部位変異による。
- 脊髄性筋萎縮症(SMA):SMN1欠損に関連し、SMN2のスプライシング(エクソン7の除外)が病態に関与する。これに対してスプライス修飾を狙った治療薬が開発されている。
- がん:異常スプライシングにより腫瘍促進アイソフォームが作られたり、腫瘍抑制因子の機能が失われたりする。多くのがん関連遺伝子(例:BRCA1/2など)でスプライシング異常が報告されている。
- その他:神経変性疾患や代謝疾患でもスプライシング変化が関与する場合がある。
スプライシングが機能していない転写産物は通常、細胞の品質管理機構で処理されます。つまり、酵素によって切り刻まれます。代表的な機構に、早期終止コドンを含むmRNAを除去するnonsense-mediated decay(NMD)があります。
診断・研究・治療への応用
- 検出法:RNA-seqによるトランスクリプトーム解析、RT-PCR/qPCRによるアイソフォーム検出、長鎖リードシーケンスで複雑なスプライシングパターンを解析。
- 機能解析:ミニジーンアッセイ(スプライシングカセットを細胞で解析)、クロスリンク免疫沈降(CLIP)で因子結合部位を同定。
- 治療戦略:アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)によるスプライス切替(例:nusinersenはSMA治療)、小分子によるスプライシング因子の活性修飾、スプライス選択的阻害薬の開発など。
最後に:臨床・基礎研究での重要性
代替スプライシングは正常な遺伝子発現制御と疾患発症の両面で中心的な役割を果たします。基礎レベルでのメカニズム解明は、診断マーカーや治療標的の発見につながり、既にスプライスを標的にした治療が臨床で成功を示している例もあります。研究・診断・治療のいずれの分野でも、スプライシングの正確な解析と制御が今後ますます重要になるでしょう。
(注)代替スプライシングは真核生物でに見られる現象で、ゲノムがコードするタンパク質多様性を増加させます。多くのヒトの遺伝性疾患は、スプライシングの変異に由来しています。代替スプライシングでは、転写によって生成されたプレメッセンジャーRNAのエクソンが、RNAスプライシング中に異なる方法で再連結される。これにより、同じ遺伝子から異なる成熟したメッセンジャーRNAが生成され、それらは異なるタンパク質に翻訳されます。

代替スプライシングは、2つのタンパク質アイソフォームを生成します。
多様性の源
代替スプライシング(異なるエクソンの再結合)は、真核生物における遺伝的多様性の主要な源である。ある特定のショウジョウバエ遺伝子(DSCAM)は、38,000種類のmRNAに交互にスプライシングすることができます。
質問と回答
Q:代替スプライシングとは何ですか?
A: 選択的スプライシングとは、転写によって生成されたプレメッセンジャーRNAのエクソンが、RNAスプライシングの際に異なる方法で再結合し、同じ遺伝子から異なる成熟メッセンジャーRNAを生成して、異なるタンパク質に翻訳するプロセスのことをいいます。
Q: 選択的スプライシングはよくあることですか?
A: 選択的スプライシングは真核生物では普通であり、ゲノムがコードするタンパク質の多様性を大きく向上させるものです。ヒトの場合、約95%のマルチエキソン遺伝子が代替スプライシングされています。
Q: 選択的スプライシングにはどのような種類がありますか?
A: 最も一般的な代替スプライシングはエクソンスキッピングで、特定の条件や組織に応じてmRNAにエクソンが含まれたり省略されたりするものです。その他にも、特定の部位の利用を促進したり抑制したりするスプライシング活性化因子や抑制因子があり、また新しいタイプのものも発見されています。
Q: 選択的スプライシングの異常変異は健康にどのような影響を与えるのでしょうか?
A: 選択的スプライシングの異常変異は、遺伝性疾患の原因となったり、がん発症の一因となったりする可能性があります。この過程で生じた働かない産物は、通常、酵素によって切り刻まれる転写後品質管理によって処理されます。
Q:代替スプライシングによって、どのようなタンパク質が作られるのですか?
A: 選択的スプライシングによって、1つの遺伝子が複数のタンパク質をコードすることができ、ゲノムがコードできるタンパク質の多様性が高まります。
Q:代替スプライシングの結果、機能しないものができた場合はどうなるのでしょうか?
A: もし代替スプライシングによって機能しないタンパク質が生じた場合、通常は転写後品質管理によって処理され、酵素によって切り刻まれることになります。
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