釉薬入門:陶磁器の定義・種類・原料・用途を徹底解説
釉薬入門:陶磁器の定義・種類・原料・用途を徹底解説 — 釉薬の仕組み、焼成温度、材料と色付け、防水や装飾の実践テクニックまで初心者でも分かる一冊。
釉薬とは、陶器や陶器に使用される表面の層(コーティング)で、一般にはガラス質のエナメルや磁器用のエナメルと呼ばれます。粉末状のガラス原料(ソリッドグラス、鉱物粉末など)は、加熱によって溶融し、基材の表面に流れ広がり、冷却されると硬いガラス質被膜となります。粉末ガラスは、組成により溶融温度が異なりますが、比較的低温に溶融するものでは約750〜850℃(約1382〜1562°F)前後で反応を始めることがあります。実際の焼成は窯で行われ、釉薬は溶けて基材に付着・結合します。
釉薬の主な役割と効果
釉薬は液体を保持できるようにするために陶器を防水にしたり、表面を着色・装飾したり、耐摩耗性や耐化学性を高めたりする機能を持ちます。無釉のままでは水を吸いやすい土器は漏水の問題が生じますが、釉薬を施せば実用的な器になります。釉薬は光沢の高い仕上げからマットな仕上げまで多様な表面テクスチャーを作り出し、下地の色や質感を強調・変化させることができます。
種類(用途別・外観別)
- 透明釉(クリアグレーズ):素地の色や下絵をそのまま見せるために用いられる。
- 不透明釉(オパック):スズ酸化物や酸化ジルコニウムなどで不透明化して模様を覆ったり、白化粧のような効果を出したりする(により不透明にする)。
- 色釉:酸化鉄(酸化鉄)、炭酸銅、炭酸コバルトなどの着色剤により様々な色が得られる。
- 塩釉/灰釉(木灰や藁灰を使う):表面に独特の光沢や斑点を生む伝統的な釉。
- 還元釉/酸化釉:窯内の還元・酸化雰囲気で色合いが変わる。例:銅が還元により赤、酸化で緑になる等。
- 下絵釉(下絵付け)・上絵釉(上絵付け):下地に絵を描いてから透明釉で覆う方法や、素焼後に絵付けして再焼成する方法。
- 特殊釉:結晶釉、天目(テンモク)、志野(しの)など、特定の外観を狙った釉薬群。
構成原料とその役割
一般的にセラミック釉薬は三つの主要成分で構成されます:ガラス形成剤、フラックス(助溶剤)、安定剤(骨格)。
- ガラス形成剤:主にシリカ(SiO2)。焼成時にガラス相を形成し、光沢や硬さの基礎を作ります。
- フラックス(溶融を助ける酸化物):ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウムなどの金属酸化物は、シリカの溶融温度を下げ、焼成温度で釉薬が流れるようにします。鉛(PbO)もかつては低温釉に使われましたが、現在は安全性の観点から使用が制限されています。
- 安定化剤(アルミナなど):アルミナは粘土に由来することが多く、釉薬の粘性を上げ、溶融後の流出を抑え、表面を硬くする役割を担います(Al2O3)。
- 着色・発色剤:酸化鉄(酸化鉄)、銅化合物(炭酸銅など)、コバルト化合物などが色を与えます。含有量や焼成温度・雰囲気によって発色が大きく変わります。
- 不透明化剤(オパシファイア):酸化スズや酸化ジルコニウムなどで釉層を乳濁させ、光を散乱して不透明にします(原料は混合比で調整)。
施釉の方法と焼成工程
代表的な施釉方法には、
- 浸漬(ディップ)— 均一で速い。
- 吹付(スプレー)— 薄膜やグラデーションに適する。
- 塗刷(ブラシ)— 小物や細部の修正に向く。
- 注釉(ポア)— 器内や特定箇所に流し込む。
- 施釉薬をスプーンや帯状に垂らすトレーリング技法などの装飾技法
施釉後は釉薬を乾燥させ、素焼(ビスケット)した場合は本焼きで溶融させます。焼成温度や窯内雰囲気(酸化雰囲気か還元雰囲気か)によって釉調や色が変化するため、レシピと焼成プロファイルの管理が重要です。
焼成温度帯の目安
- 低温釉:おおよそ750〜1100℃。業務用の低温釉は約1000〜1100℃で成熟することが多い。
- 中温釉(ミッドファイア):約1100〜1250℃(一般にcone 5〜6相当)。
- 高温釉(ハイファイア):約1250〜1400℃(石器や磁器に用いられることが多い)。
同じ配合でも焼成温度により仕上がりが変わるため、用途に応じた釉薬の選定が不可欠です。石器や磁器にも使われる釉薬は、それぞれの素地の焼成温度に合わせて設計されています。
釉薬欠陥と対策(よくある問題)
- クラック(クレイジング):釉と素地の熱膨張係数差による。配合調整や素地の改良で対処。
- ピンホール/ブリスター:ガスの発生や急激な温度変化で表面に穴が開く。燒成プロファイルの見直しや脱ガス工程の強化が必要。
- 流れ(流動過多):釉が過度に流れて窯台に接着すると作品が損なわれる。釉厚の管理やフラックス低減で防ぐ。
- 剥離(シャイバリング):釉が素地から剥がれる現象。素地との相性や収縮差に注意。
用途と歴史的・建築的応用
釉薬は食器や装飾陶磁、衛生器具、タイルや建築用被覆材など幅広く使われます。たとえば、1049年に中国の開封で建てられた釉薬煉瓦の鉄塔は、建築材料として釉薬が古くから用いられてきた一例です。
安全性と環境
釉薬原料には鉛やカドミウムなど有害金属を含むものがあるため、特に食器用には適切な無鉛レシピや安定化処理が重要です。また、粉体原料は吸入による健康リスク(シリカ粉塵など)を伴うため、防じんマスク、局所換気、手袋などの保護具を使用してください。焼成時の煙やガスにも注意し、十分な換気と適切な窯管理を行うことが必要です。
まとめと実践のヒント
- 釉薬は見た目と機能性を同時に高める重要な処理。用途(食器・装飾・建材)に応じて成分・焼成プロファイルを合わせる。
- 試験ピースで焼成試験を繰り返し、配合と焼成条件を安定させることが成功の鍵。
- 安全面を最優先に、特に有害金属含有の有無や粉体作業時の防護を徹底する。
釉薬は化学と技術、芸術が交差する分野です。基本を押さえつつ実験的に組成や焼成条件を変えていくことで、独自の表情や用途に合った釉調が得られます。

長椅子で休むヘラクレス、アンドキデスの画家による壺の側面の黒像、紀元前520年頃/510年頃ミュンヘンシュタートリーチェ・アンテイケンズアムルング
複合体のボディ、塗装、釉薬を施したボトル。16世紀の日付。イランから。ニューヨーク・メトロポリタン美術館
質問と回答
Q:釉薬とは何ですか?
A:釉薬は、陶器やセラミックに使用される層やコーティングで、ガラス質エナメルや磁器エナメルとも呼ばれています。陶磁器にガラスの粉末を融着し、高温で焼成して作られます。
Q:釉薬にはどのような種類があるのですか?
A: 釉薬にはさまざまな種類があり、装飾に使われるものもあれば、陶器が液体を保持できるように防水性を高めるために使われるものもあります。また、釉薬は下地のデザインや質感を引き立てることもあります。
Q: 陶磁器釉薬はどのような材料でできているのですか?
A: 陶磁器釉薬の原料は一般に、焼成するとガラスになるシリカ、融解温度を下げる「フラックス」として働くナトリウム、カリウム、カルシウムなどの金属酸化物、溶融釉薬が流れ落ちないように固めるアルミナ、着色用の酸化鉄、さらなる着色用の炭酸銅または炭酸コバルト、釉薬を不透明にする酸化スズまたは酸化ジルコニウムが含まれています。
Q: 粉末ガラスをセラミックに定着させるためには、セラミックをどれくらいの温度で焼く必要がありますか?
A: セラミックは、金属、ガラス、陶磁器の上に滑らかで持続性のあるガラス質のコーティングを形成する前に、粉末が溶けて流れるように、750〜850℃の間で焼成されなければなりません。
Q: グレージングが建材に使われた例として、どのようなものがありますか?
A: 1049年に中国の開封に建てられた鉄塔は、釉薬の層で覆われたレンガで作られており、釉薬が建築材料に使用された一例と言えるでしょう。
Q: グレージングはどのような目的で使用されるのですか?
A:釉薬は、色付け、装飾、強化、防水など、様々な用途に使われています。
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