イラク・レヴァントのイスラム国(ISIL)、またはイラク・シリアのイスラム国(ISIS)、またはイスラム国(IS)は、スンニ派の聖戦派過激派組織である。アラビア語では「Daesh」と呼ばれることが多く、自己を国家とみなして領域支配を試みたことで国際社会から広く注目を集めた。活動は、リビア、ナイジェリア、シリア、イラク北部の一部などに及んだことが報告されている。思想的には、イスラム教の一部解釈や、ワッハーブ教の影響を受けた過激な原理主義的解釈を掲げ、イラクや他国の支配地域を独立した国家と主張した。地域の宗派対立の中で、シーア派とは対立しており、反シーア的な言動がしばしば見られる。
起源と歴史
ISILの起源は、イラク戦争の混乱期にさかのぼる。2000年代初頭に形成されたアル=カーイダ系の武装組織が前身となり、後に2004年ごろ以降、アルカイダ系の勢力と結びついて勢力を拡大していった。組織は幾度か名称や構成を変え、イラク国内の複数の反政府勢力や武装集団を吸収して発展した。
2013年から2014年にかけて、シリア内戦とイラク国内の政治的空白を背景に勢力を拡大し、2014年6月には指導者アブー・バクル・アル=バグダーディーが「カリフ制」の復活を宣言して自らをカリフと称した。この拡大過程に伴い、2014年2月には長期にわたる権力闘争の結果、アルカイダはISILとの関係を断絶した。
組織構造と指導部
ISILは中央指導部の下に軍事部門、行政機構、司法機構、宣伝部門などを持つとされ、占領地域では税徴収、治安維持、裁判と称する厳格な規律の施行なども行った。多国籍の外国籍戦闘員を吸収し、ネット上の宣伝や募集活動を積極的に行ったことで知られる。財源は、油田の違法販売、租税・保護料の徴収、遺跡や文化財の略奪、人質身代金、犯罪的経済活動など多岐にわたると報告されている。
イデオロギーと目的
ISILは、従来の国家体制を否定し、自らの解する厳格で原始的なシャリーア(イスラム法)解釈に基づく「カリフ制」の樹立を最終目的とした。組織には終末論(千年主義的、黙示録的)を掲げる傾向があり、暴力や恐怖を手段として正当化する教義を用いて支持を集めた。
採用・勧誘手法としては、インターネットやソーシャルメディアを通じた精緻なプロパガンダ、地元住民への保護や給付をちらつかせる施策、また一部では性的搾取(性奴隷化)や強制結婚、子供兵の動員など人権侵害に基づく手段も用いていたとされる。
支配地域の拡大とその後の縮小
2014年にはイラク北部およびシリア東部で短期間に広大な領域を掌握し、国際的な脅威として認識された。最大勢力期には主要都市で行政を行い、公的サービスや裁判を実施しようとしたが、その支配は暴力と抑圧に基づくもので、多くの住民の抵抗と国外避難を生んだ。
国際社会の反応としては、多国間・二国間の軍事介入(有志連合、ロシア、イラン支援の地上部隊・現地部隊等)、地上戦を担う現地勢力(イラク政府軍、クルド部隊、シリアの一部反政府勢力など)の反攻により、2015年以降次第に領域を失った。代表的な敗北としては、イラクのモスル奪還(2017年)やシリアのラッカ解放(2017年)などがある。以降ISILは組織的な「国家」支配を失い、ゲリラ化・分散化し、各地で細胞や系列組織として活動を続けている。
人権侵害と戦争犯罪
ISILの支配下では、宗教的・民族的少数派(ヤズィーディーなど)に対する大量虐殺や強制移住、性的暴力、拷問、処刑、文化財の破壊など多数の深刻な人権侵害と戦争犯罪が報告された。国際連合や各国の調査で、これらの行為は国際法違反として厳しく非難されている。
国際的対応と現状
ISILは多くの国や国際機関からテロ組織に指定され、アメリカ主導の有志連合(CJTF–OIR)やロシア、地域勢力による軍事的打撃、情報・金融面での圧力が加えられた。軍事的敗北後も、構成員は周辺地域や国外に散らばり、傘下や忠誠を誓った分派(西アフリカ、サハラ地域、アフガニスタン周辺など)を通じて活動を継続している。
現在では、かつてのような「国家」としての領域支配は失われたが、ISIL系の過激思想やネット上のリクルート活動、紛争地における武装活動は依然として国際的な懸念事項である。対処には軍事・治安対応に加え、地域社会の復興、過激化防止、司法手続きと人道支援が不可欠とされている。
ISILやその支援者・関係者に対する国際的な警戒と法的措置は継続しており、その影響や再興の危険性を軽視することはできない。

