スパラッソドンタ(Sparassodonta)―南米原産の絶滅肉食メタセリア(有袋類の姉妹群)
南米原産の絶滅肉食メタセリア「スパラッソドンタ」を化石発見や収斂進化の視点で解説、パタゴニア発見史や分類論まで詳述。
スパラソドン類(Sparassodonta)はメタセリアに属する肉食性の哺乳類群で、かつて南米大陸に多様な種が分布しました。これらはすべて絶滅しており、現生の有袋類(カンガルーやフクロモモンガ等)の直接の子孫ではなく、有袋類(Marsupialia)の姉妹群に位置づけられることが現在の研究で示されています。古くは「真の有袋類」の一部と考えられていましたが、現在はメタセリアの特殊化した系統群と理解されています。
特徴
スパラッソドンタは形態的に多様で、体長や体重、狩猟様式に幅がありました。小型でネコのようなものから、イヌやクマに匹敵する大型種まで含まれます。共通する特徴としては、強靭な咬合力を示す下顎と歯列、肉を切り裂くために発達した切歯・臼歯(カーナッサル様の歯)など捕食に適した歯顎構造が挙げられます。中にはサーベル状の長大な犬歯を持つ種(代表例:Thylacosmilus)や、骨を砕くのに向いた頑強な頭骨を持つ種もあり、多様なニッチを占めていました。
主要な属と代表種
- Thylacosmilus — サーベルタイガーに類似した長大な上顎犬歯と下顎の受け皿状構造を持つ大型捕食者。後期新第三紀に生存したことで有名です。
- Borhyaena — イヌやオオカミに似た外貌をもつ中型〜大型の肉食獣で、走行性の捕食者的生活をしたと考えられます。
- ProborhyaenaやArminiheringiaなど — より頑強で熊のような大形種が含まれ、骨や大きな獲物を相手にした捕食者だった可能性があります。
生態と生息環境
スパラッソドンタは主に南米の開けた草地や森林辺縁、あるいは沿岸低地などさまざまな環境に適応していました。化石記録からは彼らが当時の陸上生態系において頂点捕食者あるいは重要な二次消費者の役割を果たしていたことが示唆されます。狩りの方法も追跡型、待ち伏せ型、力任せに大物をねじ伏せる型など、多様でした。
進化と分類
古典的には有袋類の一群と考えられていましたが、形態学的・分子系統学的研究が進むにつれ、スパラッソドンタは現生の有袋類とは別系統のメタセリア(メタセリア=有袋類の姉妹群に相当する広義のグループ)に位置すると解釈されるようになりました。これは「収斂進化」(異なる系統が似た生態的圧力によって類似形態を獲得する現象)の典型例で、ユーラシアや北アメリカで独立に進化した胎盤性(Placentalia)捕食者に形態が酷似する点が繰り返し指摘されています。
化石記録と研究史
スパラッソドンタの化石は主に南米で産出し、特にパタゴニアのサンタクルス層(Santa Cruz層)などから良好な保存標本が得られています。これらの化石はフロレンティーノ・アメギノらによって19世紀末から20世紀初頭にかけて記載され、以後多くの標本研究と系統解析が行われてきました。化石の地層学的分布から、彼らは新第三紀(古第三紀の後、古第三紀は古生代—ここでは新生代:始新世以降)を中心に繁栄し、新第三紀中期から後期にかけて多様化したと考えられます。
絶滅と要因
スパラッソドンタは最終的に新第三紀後期から第四紀初めにかけて絶滅しました。絶滅の原因には気候変動、環境の変化、植生の変化、さらには南北アメリカ大陸の連結による生物交流(いわゆる大陸間生物交流)で進入した胎盤性捕食者との競合など、複合的な要因が関与したと考えられています。ただし、どの要因が主因であったかには研究者の間で見解が分かれており、種や地域によって要因が異なる可能性もあります。
まとめ
スパラッソドンタは南米にかつて存在した多様な肉食メタセリア群であり、形態・生態の収斂進化を示す重要な例です。化石学と系統解析の進展により、かつての単純な分類像は大きく改訂され、現在では有袋類の姉妹群として理解されています。発掘・解析は続いており、彼らの生活史や絶滅過程の詳細は今後の研究でもさらに明らかにされていくでしょう。
ボルヒヤエンドウのリコプシス
特徴
スパラッソドンタ目は、胎生期の肉食動物と多くの類似点があるが、近縁種ではない。収斂進化の非常に良い例である。
例えば、スパラソドン類の臼歯は、現代の猫の肉切りの歯に似ていた。犬歯も長くなり、チラコスミルスなどではスミロドンなどの剣歯類ネコ科の歯に似ているものもある。体長も80cmから現代の大型ネコ科動物の大きさまで様々である。
また、オオカミや犬に近い大型の捕食者であるボルヒエノイドの仲間もいた。
ファミリー
Hathliacynidae
†Borhyaenidae
†Proborhyaenidae
†Thylacosmilidae
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