概要
フィブロインは、さまざまな天然絹の中心部を構成する、繊維状で不溶性のタンパク質である。カイコ(Bombyx mori)や各種のクモなどの節足動物の絹腺で産生され、天然の繊維では、セリシンと呼ばれる接着性のタンパク質に覆われている。周囲の被膜とは化学的にも機械的にも異なり、フィブロインは絹に特有の強度と光沢を与える。分子生物学の文脈では、しばしば単にタンパク質として言及される。
構造と化学
フィブロインの高分子鎖は、高分子量のポリペプチドであり、グリシン、アラニン、セリンに富む反復アミノ酸モチーフを持つ。これらの反復配列は、規則性の低い非晶質領域を挟みながら、層状に積み重なったβシート結晶領域へとパッキングされる。結晶領域は引張強度と剛性を与え、非晶質領域は伸びやすさと靭性に寄与する。天然のフィブロインは通常の条件では水に溶けないが、特殊な溶媒や塩を用いることで、実験室や産業用途向けに溶液として加工できる。
歴史と生産
人類による絹の生産、すなわち養蚕は古い歴史を持ち、歴史的にはカイコの繊維に重点が置かれてきた。そこでは、セリシンを除去するために精練を行った後、フィブロインが回収された。クモもフィブロインを基盤とする絹を紡ぐが、絹腺と紡糸行動はカイコとは異なり、クモの絹は大量に採取するのがより難しい。現代のバイオテクノロジーは、フィブロイン様タンパク質の組換え発現や、溶解した繊維からフィブロインを再生する方法を可能にしている。
特性と加工
フィブロインは、強度、柔軟性、生体適合性を兼ね備えるため、有用な材料とされる。一般的な加工工程には、精練、カオトロピック媒体中での溶解、さらに紡糸、キャスティング、電界紡糸による再形成が含まれ、繊維、フィルム、ハイドロゲル、フォームなどが得られる。材料特性は、βシート含量、結晶化度、分子配向を制御することで調整できる。
用途と応用
- 伝統的な織物や高性能ファブリック。
- 医療用縫合糸、組織足場、創傷被覆材、薬物送達マトリクス。
- 生分解性フィルム、光学デバイス、実験的センサー。
区別点と注目事項
フィブロインは、親水性の被膜であるセリシンと区別されるべきである。クモのフィブロインとカイコのフィブロインは配列と機械的挙動が異なり、新しい材料を設計する際に研究者が比較することが多い。絹そのものの一般的な背景については、絹も参照されたい。現在も、組換え生産、複合材料、環境負荷の少ない加工法の研究が進められており、フィブロインの産業的・生体医療的な役割の拡大が目指されている。