病者の塗油とは、ローマ・カトリックをはじめとするキリスト教の宗派における秘跡(神聖な儀式)で、病気や老齢により危険な状態にある人に授けられます。身体的な病だけでなく、精神的・霊的な苦しみに対する慰めと力づけを意図した儀式です。
病者の塗油は、必ずしも「死に瀕している人」だけのためのものではありません。死ぬかもしれないほどの重い病気を持つ人、あるいは大きな手術前や長期の病気で苦しんでいる人など、深刻な危機にある信者なら誰でも受けることができます。
この秘跡は英語で「Unction」または「Anointing」と呼ばれ、かつては「Extreme Unction」とも呼ばれていました。(「Anointing」と「Unction」はどちらも油を塗ることを意味する言葉であり、油は儀式の中心的な要素です。)
意義と目的
- 霊的な慰めと力づけ:病や苦しみの中で神の慰めを受け、信仰によって立ち向かう力を与えられるとされています。
- 罪の赦しと和解:必要に応じて告解(懺悔)とともに行われ、魂の平安と罪の赦しが強調されます。
- 病のいやし(可能性):必ずしも物理的な治癒を約束するものではありませんが、神の恵みによる癒しが祈られます。
- 死への備え:終末に向けた霊的な備えとしても重要視されます。
聖書的根拠
この秘跡は、ヤコブの手紙5章14–15節(「あなたがたのうちに病人がいるなら、教会の長老たちを呼んで…主の名によって油を塗り、祈らせなさい」)に基づく伝統的な実践に由来します。
誰が授けるのか/用いる油
- 執行者:通常は司祭(カトリックや聖公会では司祭または司教)が秘跡を執行します。東方正教会では司祭が行い、地域によっては共同祈祷が行われます。
- 油:儀式で用いる油は、しばしばオリーブ油などで、司教によって祝別(奉献)されたものが使われます。油には聖別と癒しの意味が込められています。
典型的な儀式の流れ
- 召集と導入の祈り
- 手かざし:司祭が病者に手を置いて祈ります(手かざしは霊的な力の授与を象徴)。
- 油の塗布:額と両手などに油を塗り、「この油により…」という祈りとともに祝福が行われます。
- 告解や聖体拝領が続けて行われる場合もあります(患者や家族の希望に応じて)。
効果と誤解
- 効果:霊的な癒し、平安、希望、罪の赦し、死への準備などが与えられると信じられています。
- 誤解:物理的な治癒を必ず約束するものではありません。受けたから必ず病が治る、という保証はありませんが、信仰と共同体の祈りによって支えられることが重要です。
いつ受けるべきか・繰り返し
- 重い病気になったときや大きな手術の前後、長期の病気で弱まっているとき、また高齢による衰弱が進んだときなどに受けます。
- この秘跡は「一度きり」ではなく、状態が変わるたびに何度でも受けることができます(特に病状が悪化した場合など)。
教派による違い
- ローマ・カトリック:公式な秘跡として位置づけられ、司祭が執行。聖職者による祝別油を用いる。
- 東方正教会:類似の癒しの秘跡があり、共同体的な祈りやミサと結びつけて行われることが多いです。
- 聖公会(英国国教会)や一部のプロテスタント:秘跡的に行う場合と、癒しの礼拝として行う場合があり、教派や地域により実践が異なります。
よくあるQ&A
- Q:死ぬ直前でないと受けられない?
A:いいえ。死に瀕していない段階でも、重い病気や手術前などであれば受けられます。 - Q:誰でも受けられる?
A:信者であることが基本ですが、状況によっては非信者が希望すれば祈りや油を用いるケースもあります。詳細は担当の司祭に相談してください。 - Q:家族が病床の人に受けさせたいときは?
A:病院のチャプレンや担当の教会に連絡すれば、可能な限りすぐに司祭が来て執行してくれます。
まとめ
病者の塗油(アノインティング)は、病や弱さの中で神の慰めと力を求める重要な秘跡です。必ずしも死の直前だけのものではなく、重い病気や手術前後、老齢で衰弱したときなど、必要に応じて何度でも受けることができます。具体的な手続きや油の用い方、緊急時の対応については、所属する教会や担当の司祭に相談してください。


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