United States v. Wong Kim Ark, 169 U.S. 649 (1898) は、アメリカ合衆国最高裁判所の判例で、中国系の両親からアメリカ合衆国で生まれた子供は、アメリカ合衆国憲法修正第14条の市民権条項に基づき、出生により自動的にアメリカ国民となるとの判決を下したものです。



事実関係と争点

原告ウォン・キム・アークはサンフランシスコで生まれ、両親は中国出身であった。成人後に中国へ短期間滞在したのちにアメリカへ戻ろうとしたところ、米国当局は彼の入国を認めず、その市民権を否定した。主要な争点は、「合衆国で生まれ、かつその管轄に服する者は市民である」と規定した憲法修正第14条(市民権条項)が、両親が外国籍であっても出生により市民権を与えるかどうか、という点であった。

判決の要旨

最高裁は多数意見で、ウォン・キム・アークが出生時に合衆国の市民であったと認定した。裁判所は、第14条の文言と1866年のCivil Rights Act(市民権法)および英米のコモンロー(慣習法)に照らして、合衆国内で生まれた者は原則として出生により市民となる(出生地主義、jus soli)と結論付けた。

裁判所の論拠(ポイント)

  • 条文解釈:第14条の「born or naturalized in the United States, and subject to the jurisdiction thereof」という語句を字義どおりに解釈し、恒常的・全面的に米国の法の支配に服する者は市民であるとした。
  • コモンローの伝統:イングランド及びアメリカの慣習法において、国内生まれの者を国民とする伝統があることを指摘した。
  • 例外の限定:外交官の子や占領軍の子など、一時的に政府の主権に服さない特殊な場合を除き、外国人の子であっても出生地主義の適用を妨げないと判断した。

重要な例外と制限

  • 外交官の子:外国の外交官や公的代表の子は、両親が外交特権を有するため「管轄に服する」者に該当せず、市民権は認められない。
  • 敵占領地域での出生:敵の占領下で生まれた子など、特別な法的地位にある場合は別扱いとなる。
  • 国外で生まれた子:合衆国外で生まれた者の市民権(父母の市民権に基づく血統主義、jus sanguinis)は、別途連邦法や条約で定められる。

歴史的・社会的背景

本件は中国人移民に対する差別的政策(中国人排斥法など)が強まっていた時期に生じた。判決は排斥法時代の状況を背景に、憲法上の平等と市民権の原則を堅持する重要な判断と見なされている。

その後の影響と意義

  • 出生地主義の確認:ウォン・キム・アークは米国における出生地主義(生まれた場所に基づく市民権)を確立した主要判例であり、その後の出生による市民権の解釈の基礎となった。
  • 移民政策・政治的議論:出生地主義は現在でも政界で議論されるテーマであり、同判決はその法的根拠としてしばしば参照される。
  • 現行法との関係:第14条や連邦法により、当判決の基本原則はいまだ有効であり、最高裁が完全に覆した事例はない(ただし具体的適用範囲をめぐる議論や下級審での判断は続いている)。

補足・参考点

・第14条の文言「subject to the jurisdiction thereof」は、裁判所が説明したとおり万能な免責句ではなく、特定の例外を意図するにとどまる。
・国外出生で親が米国市民の場合の市民権取得は、別個の法体系(移民国籍法)で規定されるため、本判決の直接の対象外である。
・本判決は憲法解釈とコモンローの伝統を結び付けて市民権を定義した点で、米国市民権法の理解において基礎的判例とされる。