数学において、単射(注入)とは次のような性質を持つ関数f : A → Bのことである。すなわち、共領域Bのすべての要素bに対して、領域Aの中にf(a)=bとなる要素aが存在するとしても、それは高々(最大で)1つである。等価な定義として、任意のa1, a2 ∈ Aについてf(a1)=f(a2)ならばa1=a2である、という条件がある。
「射出」という言葉、および関連する超射出、両射出はニコラス・ブルバキによって導入された。1930年代、ブルバキは他の数学者たちとともに現代数学の形式的な記述を進める著作を発表した。
単射はしばしば1-1(one-to-one)関数と呼ばれる。しかし注意が必要なのは、日常語としての「1対1対応(one-to-one correspondence)」は通常、単射かつ全射(全単射=双射、bijection)を意味する、すなわち両方の性質を満たす対応を指す場合が多い点である。用語の使い分けに注意しよう。
単射の同値条件と直感的意味
- 異なる元は必ず異なる像を持つ:a1 ≠ a2 ⇒ f(a1) ≠ f(a2)。
- 逆像が高々1つ:任意の b ∈ B に対して f^{-1}({b}) の元の個数は 0 または 1。
- 左約分可能(左可逆):ある関数 g: B → A が存在して g ∘ f = id_A となるとき、f は単射である。逆に f が単射ならば選択公理を使って(対象によっては明示的に)左逆元 g を定められる場合がある。
基本的な性質
- 関数の合成に関して:もし f と g が共に単射ならば g ∘ f も単射である。
- 有限集合について:f: A → B が単射ならば |A| ≤ |B| が成り立つ。
- 線型代数では、線型写像が単射であることはその核が零空間であることに同値である。
- 実数上の連続関数では、単射であるための十分条件として単調増加または単調減少であることが挙げられる(ただし必須条件ではない)。
- 可逆性:f が単射かつ全射(双射)であれば逆写像 f^{-1}: B → A が一意に存在する。
例
- f: ℝ → ℝ, f(x) = 2x は単射(任意の x,y について 2x = 2y ⇒ x = y)。
- f: ℝ → ℝ, f(x) = x^2 は全体の実数に対しては単射でない(1 と −1 が同じ像 1 を持つ)。しかし制限域を [0,∞) にすれば単射になる。
- f: ℝ → (0,∞), f(x) = e^x は単射だが、像は正の実数に限られるため ℝ 全体への全射ではない。
- 集合 A = {1,2,3}, B = {a,b,c,d} について、f(1)=a, f(2)=b, f(3)=d のように異なる像を与えれば f は単射。
単射と全射・双射との違い
- 単射(injective): 異なる元を異なる像に写す(上で説明した条件)。
- 全射(surjective、超射): 任意の b ∈ B に対して少なくとも1つの a ∈ A が存在して f(a)=b となる。像 f(A) が B に一致する。
- 双射(bijective、全単射): 同時に単射かつ全射であり、逆写像が存在する。
応用と補足
- 集合の濃度比較:集合 A から B への単射が存在することは |A| ≤ |B| の直感的な意味を与える。逆も成り立つ場合(互いに単射が存在する)には Cantor–Schroeder–Bernstein の定理より双射が存在する。
- 単射の判定法は対象によって異なる。関数の解析的表現がある場合は等式を調べる、または微分を使って単調性を調べる等が有効。
- 左逆(section)や右逆(retraction)という概念によって単射・全射の存在を特徴付けることができる。特に、左逆が存在すれば単射、右逆が存在すれば全射である。
最後に用語上の注意として、場面によって「1-1」が単射を指すこともあれば、文脈により「1対1対応」が双射(全単射)を指すこともあるため、文脈を確かめて使うようにしてください。





