概要

マイコプラズマは、極めて小さいことと、硬い細胞壁を欠くことが特徴の細菌群を指す。これらはモリクテスに分類され、構造が単純で、しばしば縮小したゲノムをもつ独特の細菌である。典型的な細胞壁がないため形態は多様になり、細胞壁合成を標的とする抗菌薬には感受性を示さない。

主な特徴

  • 細胞構造:柔軟な原形質細胞膜が細胞質を包む。多くの種では、コレステロールなどのステロールの取り込みが膜の安定化に寄与する。
  • グラム反応:染色上は一般にグラム陰性として扱われるが、真の細胞壁がないため、グラム分類の意義は限られる。
  • 大きさと形:自由生活性細胞としては最小級で、多くの細菌を通さないフィルターを通過でき、糸状や球状など変化に富む形を示す。
  • 代謝:多くは栄養要求性が高く、宿主由来の栄養素を必要とし、必須因子を新たに合成できないことが多い。

歴史と分類

マイコプラズマは20世紀初頭、動物の呼吸器疾患との関連と特異な発育条件から「胸膜肺炎様微生物(PPLO)」として認識された。のちに、顕微鏡観察、培養技術、分子生物学的手法の進歩によってモリクテス綱としての分類が明確になり、細胞壁をもつ他の細菌から区別されるようになった。現在の分類学では、遺伝情報を基に種や近縁関係が定義されている。

生態、病原性、例

多くのマイコプラズマは植物、動物、人に寄生するが、死んだ有機物を利用して生きる腐生性のものもある。種によっては大気中の酸素が少ない、またはない環境でも生存できる。ヒトに重要な病原体もあり、M. genitaliumは非淋菌性尿道炎や生殖器感染との関連が知られ、M. pneumoniaeは異型肺炎の原因として認識されている。多くの種が病原性を示すため、地域医療と病院の双方で医学的に重要である。

診断、治療、検査室への影響

マイコプラズマの検出には、専用培地を用いた培養、血清学的検査、そして近年では分子検査(PCR)が用いられる。標準的な培養は時間がかかり、技術的にも難しい。治療では、細胞壁ではなくタンパク質合成やDNA複製を阻害する薬剤が選ばれ、β-ラクタム系よりもマクロライド系、テトラサイクリン系、フルオロキノロン系が使われることが多い。細胞壁を標的とする一般的な抗菌薬、たとえばペニシリンは無効である。病気の原因になるだけでなく、マイコプラズマは細胞培養の汚染源としても悪名高く、気づかない感染が実験結果を変えてしまうことがある。

識別上の特徴と意義

  1. 細胞壁がないため、細胞壁標的薬に本質的な耐性を示し、染色結果も一定しない。
  2. ゲノムが小さく、生合成能力が最小限であるため、多くの種は増殖に宿主因子を必要とする。
  3. 宿主細胞へ強く付着する能力は持続感染や免疫回避に寄与し、排除を難しくする。

このような特異な生物学的特徴と臨床的関連性から、マイコプラズマは微生物学において重要な位置を占める。細胞生命の最小モデルとしても、標的を絞った診断・治療が必要な病原体としても研究されている。さらに読むには、一般的な参考資料や同定・管理に関する実験室ガイドを参照するとよい(マイコプラズマの概要細菌の基礎資料構造に関する注記膜生物学染色上の注意、ステロール要求性、抗菌薬の考え方ペニシリンの限界、病原性のある種、生態、酸素耐性M. genitalium臨床症候群M. pneumoniae)。