ツェツェバエとはアフリカの吸血ハエGlossina属の生態と眠り病など病気媒介

ツェツェバエは、アフリカの熱帯地方に生息する大型の刺咬(しこう)ハエである。脊椎動物に噛みつき、その血液を吸う。いくつかの深刻な病気の媒介昆虫である。

眠り病などの病気を媒介するため、多くの研究がなされています。

Glossina属は、3つのグループに分かれて約34種が生息している。サバンナに生息するグループ、川の近くに生息するグループ、そして熱帯林に生息するグループである。



特徴と見分け方

  • 大きさ・色:体長はおよそ6〜16mm。灰褐色〜暗褐色で、全体にずんぐりした体形。
  • 口器:前方に突き出した鋭い吻(ふん)で皮膚を貫き吸血するため、刺されると痛みを感じやすい。
  • 翅の特徴:休息時に翅を体の上でぴったり重ねる。翅脈に「斧(ハチェット)形」の細胞があり、ツェツェバエの代表的な識別点。
  • 吸血習性:オス・メスともに吸血する点が多くのハエと異なる。

分類とグループ

Glossina(ツェツェバエ)は、独立したグロッシニダエ(Glossinidae)科に属し、次の3系統に大別されます。

  • サバンナ群:乾燥草原〜疎林に適応。家畜や野生草食獣をよく吸血し、家畜の病気(ナガナ)の媒介に関与しやすい。
  • 河畔群:川沿いの林縁や湿地の茂みに多い。人間を刺す機会が比較的多く、ヒトの眠り病との関連が深い。
  • 森林群熱帯林に依存し、日陰で湿った環境を好む。

分布と生息環境

  • 分布はサハラ以南のアフリカのみ。地域の植生や降雨、野生動物の分布と強く結びつく。
  • 日中に活動することが多く、濃い茂みの陰で休みながら、通り道や水辺で通行動物を待ち伏せする。
  • 二酸化炭素、体臭、動き、コントラストの強い色(特に青・黒)に引き寄せられる。

生活史と繁殖の特徴

  • 胎生(単仔繁殖):多くのハエが卵を多数産むのに対し、ツェツェバエは雌の体内で1匹の幼虫をミルク腺で育て、成熟幼虫(終齢)として地面に「産み落とす」。
  • 蛹化:落ち葉や砂地に潜って蛹(さなぎ)になり、数週間〜1か月前後で成虫が羽化。発育速度は気温に左右される。
  • このK選択的な繁殖戦略により個体群増加は緩やかだが、成虫が長寿なため地域にしぶとく定着する。

吸血行動と人・動物への影響

  • オス・メスともに吸血し、刺咬時の唾液に含まれる抗凝固物質の作用で強い痛みと腫れが出ることがある。
  • 主な吸血対象は大型の野生動物や家畜だが、人間も刺される。連続して襲うことがあり、屋外活動の妨げになる。
  • 家畜の貧血・衰弱・流産・体重減少を通じ、農牧業に大きな経済的損失を与える。

媒介する主な病気

  • 眠り病(ヒト・アフリカ・トリパノソーマ症)病気を引き起こす寄生原虫(トリパノソーマ)が、ツェツェバエ体内で発育・変態してから人に伝播される。
    • 西・中央アフリカ型(慢性型):Trypanosoma brucei gambiense。ゆっくり進行し、発熱・リンパ節腫脹ののち中枢神経に侵入すると睡眠障害などが出現。
    • 東・南部アフリカ型(急性型):T. b. rhodesiense。進行が速く、早期対応が重要。
  • 家畜のトリパノソーマ症(ナガナ)T. congolenseT. vivaxT. brucei bruceiなどにより、ウシ・ヒツジ・ヤギ・ウマ等が罹患する。

診断には血液やリンパ・髄液の検査が用いられ、治療薬も存在するが、早期発見・早期治療が不可欠である。感染が疑われる場合は医療機関での評価を受けることが重要。

防除と予防策

  • 個人の予防
    • 肌の露出を避ける服装(長袖・長ズボン)と、厚手の織物を選ぶ。
    • 色選び:青や黒は避け、地味なベージュやカーキなどにする。
    • 衣類の防虫加工(例:ペルメトリン処理)。一般的な皮膚用忌避剤(DEET等)はツェツェバエには効きにくい場合がある。
    • 茂みの陰や川の近くの繁みでは立ち止まらない。車両の窓を閉める、キャンプでは防虫ネットやスクリーンを活用。
  • 地域レベルの防除
    • 青黒の布と誘引剤(例:アセトン、1-オクテノール等)を組み合わせたトラップ/ターゲットに殺虫剤を含浸して設置。
    • 不妊虫放飼法(SIT):大量の不妊オスを放して繁殖を抑制。島嶼や半隔離地域で成功例がある。
    • 家畜へのピレスロイド系殺虫剤の処理(浸漬・噴霧)で吸血を減らし、病原体循環を抑える。
    • 環境管理(過度な藪の除去や家畜の放牧管理など)を、住民・家畜衛生・野生動物保全と両立させつつ実施。

研究と公衆衛生上の重要性

  • ツェツェバエは生物学的媒介者であり、病原体はハエ体内で発育・増殖してから伝播される。この特性は防除戦略(成虫密度の長期的低下)を有効にする。
  • ゲノム解析や行動生態の研究が進み、匂い受容体や繁殖生理(ミルク腺など)を標的とする新たな手法の開発が進展。
  • ヒトの眠り病は多国間のサーベイランスと統合防除により大幅に患者数が減少したが、再燃リスクがあるため継続的な監視が必要。

覚えておきたいポイント

  • オス・メスとも吸血し、日中に活動する。
  • 胎生で1匹ずつ子を産むため増殖は遅いが、根絶には時間がかかる。
  • 青・黒に強く誘引されるため、服装と罠の設計が予防・防除の鍵。
  • 眠り病・ナガナの主要媒介として、人と家畜の健康・経済に大きな影響を及ぼす。

ライフサイクル

ツェツェのライフサイクルは特殊である。メスは一度に一つの卵しか受精させず、それぞれの卵を子宮内に留めておき、最初の幼虫の時期に子ガメが体内で成長する。この間、メスは子宮内の分泌腺から分泌される乳液を子虫に飲ませる。

第三幼虫期になると、ツェツェの幼虫はようやく子宮を離れ、地中にもぐり込む。そこで硬い外殻を形成し、サナギとなる。そして、成虫へと変態を遂げる。この間、幼虫は貯蔵資源を頼りに、20〜30日かかる。

通常、昆虫の幼虫は蛹になる前に自分で餌をとるが、ツェツェの発生(完全な成虫として出現する前)は餌をとらずに行われる。親であるメスから与えられる栄養源だけで発生するのだから、いかに血液が豊富な栄養源であるかがわかる。メスは、自分の必要なエネルギーと、発達中の子どもの必要なエネルギー、そして子どもが成虫になるまで必要とする資源を蓄えておくためのエネルギーを十分に確保しなければならない。



ハエの制御

20世紀以前は、ツェツェバエの発生する地域に人や家畜が住むことはなかった。20世紀には、第二次世界大戦後に農薬を使用することで、多くの問題が解決されました。現在では、より繊細な方法が好まれています。ツェツェバエを捕獲するには、大きな青い布をルアーとして使用する方法があります。また、放射線照射した不妊の雄バエを放つのも良い方法です。メスは一生に一度しか交尾しないので、その分、個体数が減ります。




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