数学において、内積は2つのベクトルを入力とし、スカラー数を出力とする演算である。返される数値は、2つのベクトルの長さと、ベクトルの間の角度に依存する。スカラー積という名称は、演算結果がベクトルではなくスカラーであることを強調するために用いられる。

内積は(3次元空間において)ベクトルを結果とする外積と対照的である。

定義(幾何学的・座標表示)

幾何学的には、2つのベクトル a, b の内積は次のように定義される:

a・b = |a| |b| cosθ(ここで θ は a と b のなす角、|a| は a の長さ)

ユークリッド空間 R^n の座標表示では、成分ごとの積の和で表される:

a = (a1, a2, …, an), b = (b1, b2, …, bn) のとき
a・b = a1 b1 + a2 b2 + … + an bn = Σ_{i=1}^n a_i b_i

基本的な性質

  • 対称性: a・b = b・a。
  • 線形性(双線形性): 任意のスカラー α, β とベクトル a, b, c について
    (αa + βb)・c = α(a・c) + β(b・c)。
  • 正定値性: a・a = |a|^2 ≥ 0。さらに a・a = 0 であることは a が零ベクトルであることと同値。
  • コーシー・シュワルツ不等式: |a・b| ≤ |a||b|。これにより角度の定義や余弦類似度が意味を持つ。
  • 三角不等式の導出: 内積とノルムの関係から ||a + b|| ≤ ||a|| + ||b|| が得られる。
  • 直交性: a・b = 0 のとき a と b は直交(orthogonal)であると言う。

計算例

  • R^2 の例: a = (1, 2), b = (3, 4) のとき
    a・b = 1×3 + 2×4 = 3 + 8 = 11。
  • 内積から角度を求める: cosθ = (a・b) / (|a||b|)。先の例で |a| = sqrt(1^2+2^2)=√5, |b|=√(3^2+4^2)=5 なので
    cosθ = 11 / (√5 × 5)。
  • 射影(projection)の計算: ベクトル a をベクトル b に沿って射影したベクトルは
    proj_b(a) = (a・b / b・b) b。これは b に直行する成分を取り除いた a の成分を与える。

応用例

  • 物理: 力と変位の内積は仕事(仕事 = F・d)を表す。
  • コンピュータ・グラフィックス: 法線ベクトルと光線方向の内積で入射角を評価し、照明(拡散反射など)を計算する。
  • 機械学習・情報検索: コサイン類似度(cosine similarity)は内積を利用して文書やベクトル間の類似性を測る。
  • 線形代数・数値解析: 直交基底、直交化(グラム=シュミット)、主成分分析(PCA)など多くの手法で内積が基本となる。

複素ベクトルの場合の注意

成分が複素数を取る空間では、内積は共役線形性を考慮して定義されるのが通常である。例えば C^n では

⟨x, y⟩ = Σ x_i overline{y_i}(定義の取り方により順序が逆になる慣習もある)で、これにより⟨x, x⟩ は実数かつ非負となる。複素内積では対称性は共役対称(⟨x, y⟩ = overline{⟨y, x⟩})に置き換わる点に注意する。

まとめ(ポイント)

  • 内積はベクトルの長さと角度からスカラーを与える基本的な演算である。
  • 座標では成分ごとの積の和で計算でき、幾何学的には |a||b|cosθ に等しい。
  • 直交性、射影、コーシー・シュワルツ不等式など多くの重要な性質を持ち、物理や情報科学を含む広範な応用がある。