数学では、単位元(中立元ともいう)は、集合に二項演算が備わった構造の要素で、他の要素と合わせてもその要素を変えないものをいう。簡単にいえば、任意の要素を単位元と結合すると同じ要素が得られる。この概念は多くの代数系に現れ、演算の基準点として働く。
定義と基本的事実
集合 S に二項演算 ⋆ が与えられているとき、S の要素 e が(二側)単位元であるとは、S の任意の x について e ⋆ x = x かつ x ⋆ e = x が成り立つことをいう。結合律が成り立つ構造(たとえばモノイドや群)では、単位元は一意であり、異なる二つの要素が同時に単位元の条件を満たすことはない。非結合的な文脈では、左単位元(e ⋆ x = x)と右単位元(x ⋆ e = x)を区別することがあり、二側単位元をまったく持たない構造もある。
代表的な例
- 数の加法では、0 が加法の単位元であり、任意の数 a について 0 + a = a となる。
- 乗法では、1 が乗法の単位元であり、すべての数 a に対して 1 · a = a である(環や体ではこれを乗法単位元という)。
- 群では、単位元(しばしば e または 1 と書く)が必ず存在し、各要素はそれに対する逆元をもつ。これは群を定める公理の一つである。
性質と用途
単位元は中立的な基準として働き、逆元、累乗、準同型写像の定義で中心的な役割を果たす。多くの代数的証明は、単位元を挿入したり打ち消したりすることから始まる。計算では、単位元の値は初期の累積値として用いられ、和では 0、積では 1 が使われる。線形代数や圏論では、これに対応する概念として単位行列や恒等射があり、それぞれ行列積と合成に対する中立元として働く。
注記と区別
単位元は、存在する場合には結合的な体系で一意だが、代数的な文脈によっては左単位元と右単位元が異なることもあり、あるいはどちらも存在しないこともある。構造が単位元を持つかどうか、また二側単位元かどうかを見分けることは、逆元や単元など、どのようなさらなる構成が可能か、またどの代数的手法が適用できるかを判断する助けになる。