火傷(やけど)は、皮膚やその下の組織が熱、寒さ、電気、化学物質、摩擦、放射線などによって損傷を受ける状態を指します。日常的には高温の液体(熱湯)や固体(火や熱した金属)による熱傷がもっとも多く見られます。火傷の発生率は男女でほぼ同じですが、原因は異なることが多く、地域や生活様式によってリスク要因も変わります。例えば、ある地域では女性が直火や安全でないコンロを使うことに伴うリスクが高く、男性では職場での危険作業が原因となることがあります。また、アルコール依存症や喫煙は火傷のリスクや重症化の因子となり得ます。火傷は、自傷行為や他者による暴力によって生じることもあります。
火傷の重症度(深さ)の分類
火傷は損傷の深さにより一般に次のように分類されます。
- 表皮熱傷(1度):皮膚の表面(表皮)のみが赤くなり、痛みはあるが水ぶくれはできない。日焼けに近い状態。
- 浅達性部分厚(2度・表在性):表皮と真皮の浅い層まで損傷し、水ぶくれ(熱傷性水疱)や強い疼痛を伴う。治癒により色素沈着や瘢痕が残ることがある。
- 深在性部分厚(2度・深在性):真皮の深部まで達し、痛みが鈍化したり、皮膚が白っぽくなる。自然治癒が遅く、手術(創部の除去・移植)が必要となることが多い。
- 全層熱傷(3度):表皮・真皮全層が壊死し、皮膚が硬く黒ずんだり白っぽく見える。痛みが少ないこともあるが、感染や大量の体液喪失を伴い、外科的処置が必要。
- 四度熱傷:筋肉や骨まで損傷が及ぶ重篤な状態。
全身への影響と合併症
広範囲や深い火傷は局所だけでなく全身状態に重大な影響を及ぼします。代表的なもの:
- 循環性ショック(大量の体液喪失や血管透過性亢進による血圧低下)
- 全身性炎症反応症候群(SIRS)や多臓器不全
- 感染症/敗血症(創部感染が進行すると致命的)
- 呼吸器合併症(吸入熱傷や煙・有害ガス吸入による気道損傷)
- 長期的には瘢痕、ケロイド、関節拘縮、心理的問題(PTSDやうつ)
救急受診・専門搬送の目安(緊急性のある状況)
以下の場合は直ちに救急を受診または専門の熱傷センターへ搬送が必要です。
- 顔、手、足、性器、肘や膝など重要な関節に及ぶ火傷
- 全層熱傷(3度)や深い2度熱傷
- 電気熱傷、化学熱傷、吸入損傷が疑われる場合
- 広範囲の部分的厚熱傷:成人で体表面積(TBSA)のおおむね10%以上、小児では5%以上が目安(搬送の目安であり、施設や状況により基準は異なります)
- 高齢者や基礎疾患がある人、同時に重い外傷がある場合
- ショック状態(意識障害、呼吸困難、血圧低下など)
応急処置(初期対応)
火傷に遭ったらまず安全を確保し、以下の手順で処置します。
- 危険源から遠ざける(火元を消す、電源を切るなど)。
- 冷却:流水(冷たい水)で少なくとも10〜20分間冷やす。広範囲の場合や低体温に注意して行う。氷で直接冷やさない(凍傷や悪化の恐れ)。
- 衣類・装飾品の除去:熱で温まっている衣服や指輪は慎重に取り除く(皮膚に張り付いている場合は無理に剥がさない)。
- 水ぶくれを破らない:水疱を勝手に破ると感染の危険が増す。
- 清潔な被覆:滅菌ガーゼや清潔な布で患部を覆う。軟膏やバターなどの民間療法は避ける。
- 疼痛対策:必要なら鎮痛薬を用いる(アセトアミノフェンやNSAIDsなど)。
- 化学薬品の場合:まず大量の流水で十分に洗い流す(少なくとも20分以上)。粉末はまず払ってから洗う。中和剤は専門家の指示がなければ使用しない。
- 電気の場合:触れる前に電源を切る。出入口創傷があることがあるため、内部損傷や不整脈のリスクがあり、病院での評価(心電図)が必要。
- 吸入損傷が疑われる場合(顔や口のすすや焦げ臭、咳、声のかすれ、息苦しさなど)は早急に医療機関へ。
- 破傷風予防:火傷の程度や予防接種の状況に応じて、接種が必要になることがある。
病院での治療
治療は火傷の深さ・範囲・部位・患者の年齢や全身状態によって異なります。代表的な治療法:
- 創部管理:消毒、壊死組織のデブリードマン(除去)、湿潤療法や被覆材(抗菌被覆、ハイドロコロイドなど)を用いる。
- 感染対策:創部の培養と抗生物質の使用(必要時)。感染予防のための厳格な創部管理。
- 外科治療:深い熱傷や治癒が期待できない場合は、壊死組織の切除(創部開放)と皮膚移植(自家移植)を行う。
- 輸液管理:広範囲の熱傷では体液が大量に失われるため、輸液補正が必要。Parklandの式(4 ml × 体重(kg) × TBSA(%))などが指標の一つである(初期管理は専門施設で行う)。
- 栄養管理:高カロリー・高タンパクの栄養が必要。創傷治癒を促すための十分な栄養補給。
- 理学療法・作業療法:拘縮予防、関節可動域の維持、機能回復のためのリハビリ。
- 瘢痕治療:圧迫療法、シリコーン製品、ステロイド注射、必要に応じて形成外科的処置。
- 心理的ケア:外貌の変化や痛み、入院生活が心理的な負担となることがあるため、カウンセリングや精神科サポートが必要なことがある。
特殊な火傷の注意点
- 電気熱傷:外見は小さくても内部損傷や臓器障害、心臓の不整脈を起こすことがある。入院評価が必要。
- 化学熱傷:薬品の種類により組織損傷の進行が異なる。速やかな流水洗浄が重要で、中和は専門指導が必要。
- 吸入障害:火災時の煙や有毒ガスの吸入は気道腫脹・肺障害を起こし、気管挿管や人工呼吸が必要になることがある。
- 低温(凍傷)や摩擦熱:原因に応じた対応が必要で、凍傷はゆっくり温めるなど別の手順がある。
予防策
火傷は予防が可能なことが多いです。一般的な対策:
- 調理中はそばを離れない、子どもをキッチンに近づけない。
- お湯の温度設定を適切にする(家庭用温水は高温になりやすく、やけどの原因となるため注意)。
- ストーブや火器の周囲に可燃物を置かない、衣服が火に近づかないようにする。
- 電気機器の点検と適正な使用、職場での保護具着用や安全教育。
- 化学薬品の取り扱いで適切な保護(手袋、ゴーグル)を行う。
- 子ども・高齢者は特にリスクが高いので、家具の角や熱源の位置、飲料の温度管理など環境整備を行う。
- 家庭内外での防火対策(消火器の設置、煙感知器の点検)を行う。
最後に
火傷は軽度でも適切な処置をしないと感染や瘢痕、機能障害を残すことがあります。深さや範囲、部位、原因(電気・化学・吸入)によってはすぐに専門医の診察が必要です。疑わしい場合はためらわずに医療機関を受診してください。必要に応じて救急を呼び、適切な救急処置と専門治療を受けることが生命と機能の維持につながります。







