モーリス・ラヴェル(Maurice Ravel、1875年3月7日ピレネー・アトランティック県シブール生まれ、1937年12月28日パリ没)は、フランスの作曲家である。ドビュッシーと一緒に語られることが多いが、両者の音楽は性格や作曲法がはっきりと異なる。ラヴェルは子供や動物が題材の作品、童話や異国情緒を感じさせる作品を好み、繊細な色彩感と洗練された構築力で知られる。彼は卓越した編曲・オーケストレーションの技を持ち、数多くの美しいが高度なテクニックを要するピアノ曲も残している。代表作の一つであるボレロはオーケストラのための単一主題による作品で約17分、徐々に増強される編成と強度によって大きな効果を生む。アイススケートのトービルとディーンが1984年のオリンピック・チャンピオンになったときのプログラムで使ったのは、この曲の短縮版である。
経歴と背景
ラヴェルはパリ音楽院で学び、ガブリエル・フォーレなどに影響を受けた。彼は幾度かのプライ(Prix de Rome)挑戦に失敗したことでも知られるが、それが彼の創作活動を妨げることはなかった。第一次世界大戦中は年齢的に前線勤務から外され、戦時の仕事に従事した経験がある。20世紀初頭の作曲家仲間(いわゆる“Les Apaches”)と交わり、新しい音楽表現を模索した。
音楽の特徴
- 色彩的な和声と精緻なオーケストレーション:管弦楽の色合いを細かく操る才能に優れ、弦楽・管楽器の組み合わせで独特の響きを作る。
- 形式と技巧の明晰さ:ドビュッシーが印象主義的な曖昧さを持つのに対し、ラヴェルは古典的な構成や対位法、リズムの明快さを重視する。
- 国際的・多様な影響:スペイン音楽やバスクの民族色、ジャズやロシア音楽などを取り入れながらも、個性的な言語に統合する。
- 技巧的・演奏上の難易度:ピアノ曲や協奏曲には高度な演奏技術と精密なアーティキュレーションが要求される。
主要な作品と簡単な解説
- Pavane pour une infante défunte(亡き王女のためのパヴァーヌ):優雅で哀感を帯びたピアノ曲(後にオーケストラ版も有名)。
- Gaspard de la nuit(夜のガスパール):ピアノ独奏曲の名作で、特に「オブレの歌」は超絶技巧を要する。演奏の難易度で知られる。
- Miroirs(鏡):ピアノのための五曲から成り、各曲が異なる色彩を持つ。編曲や管弦楽化も行われた。
- Jeux d'eau(水の戯れ):ピアノ曲で光と水のイメージを音で描写した作品。
- Ma mère l'Oye(母親の唄/おやゆび姫):もともとはピアノ連弾のために書かれた子どものための組曲で、後に管弦楽版も作られた。
- Daphnis et Chloé(ダフニスとクロエ):バレエ音楽。幻想的で豊かな管弦楽法が評価される大作。
- Le tombeau de Couperin(クープランの墓):ピアノ組曲(後に管弦楽版)で、古典様式への敬意を払いつつ現代的な表現を融合している。
- ピアノ協奏曲 ト長調:ジャズの要素やリズムの切れ味を取り入れた協奏曲で、軽快さと技巧を兼ね備える。
- ピアノ協奏曲(左手のための):戦争で右腕を失ったピアニスト、ポール・ヴィトゲンシュタインの委嘱で作られた。左手だけで驚異的な音響を作る。
- 弦楽四重奏曲:古典的な書法と現代的な響きが同居する作品。
- ボレロ:単一のメロディーと一定のリズム(オスティナート)を繰り返しながら、管弦楽の色彩と音量を徐々に増していくという単純だが強烈な構成。もともとはバレエのために書かれ、コンサート作品としても大成功を収めた。
晩年と死、遺産
1930年代に入るとラヴェルは健康問題に悩まされるようになり、記憶や言語の障害が報告された。1937年に脳の手術を受けたが、充分な回復は得られず、同年12月28日にパリで亡くなった。生前・没後を通じてその作品は世界中で演奏され、編曲や映画音楽、バレエ、舞踊など幅広い分野に影響を与えている。
聴きどころのアドバイス
- 初めてなら、まずはボレロ、Pavane、Daphnis et Chloéの組曲を聴いてラヴェルの色彩感とオーケストレーションを味わうと良い。
- ピアノ曲に挑戦したいなら、難曲揃いの中でもJeux d'eauや
などは技術と表現のバランスが取れている。 - ラヴェルとドビュッシーの違いを確かめるために、両者の同時代作品を並べて聴くのも面白い。
ラヴェルは「色」を音で描き出す稀有な作曲家であり、その精緻さと想像力は今なお多くの聴衆と演奏家を魅了し続けている。

