African Sanctus(アフリカン・サンクタス)は、デヴィッド・ファンショウによる合唱、ソリスト、オーケストラのための作品で、コンサートでの上演時にはファンショウが旅先で集めたアフリカ各地のフィールド録音(テープ)を同時に流す形で演奏される作品です。1972年に作曲され、作曲者の代表作として広く知られています。

作曲の背景

ファンショウは1969年から1973年にかけてナイル川を遡上する旅を行い、その途上で出会った人々の歌や儀礼音楽、生活音をテープに録音しました。旅程が地図上で「十字架の形」を描いたことは彼にとって宗教的な象徴性を持ち、この経験が宗教音楽であるミサ文を素材にした本作の発想につながりました。帰国後、アフリカで収集した音源をテープに残し、それを生演奏の合唱・オーケストラと結びつける形でAfrican Sanctusを作り上げました。

構成と音楽的特徴

African Sanctusは、カトリックの典礼ミサの主要部分(たとえばKyrie、Gloria、Credo、Sanctus、Benedictus、Agnus Deiなど)を基盤にしていますが、そこにアフリカ各地で録音された歌や音が重ね合わされ、対話または対抗するような音響を作り出します。特徴は次のとおりです。

  • ライブ演奏とテープ音源の併用:生の聖歌隊やソリスト、オーケストラの上に、録音されたアフリカの歌や生活音がミックスされる。
  • 文化的対置:ラテン語のミサ文と、現地の言語や旋律、リズムが並置され、異文化間の対話が音楽的に表現される。
  • 多様な音色:器楽的伴奏だけでなく、打楽器や民俗的声法、コール&レスポンス的な歌唱などが組み合わさる。

録音地と素材

作品に用いられたフィールド録音は、作品の冒頭でも触れられている通り、エジプト、スーダン、ウガンダケニアなど、ナイル流域や東アフリカで行われた収録から採られています。そこには宗教歌、労働歌、祭礼音楽、日常の歌声など、多彩な素材が含まれています。

初演とその後

当初はアフリカン・レヴェレーションと名付けられていましたが、その後アフリカン・サンクタスと改題されました。1972年7月にロンドンでサルタレッロ合唱団によって初演され、その後、国連の日に合わせてBBCラジオで放送されるなど、早くから注目を集めました。初演から約3年後には、本作の成立過程や旅の模様を追ったドキュメンタリー映画が制作され、作品理解の助けとなりました。

受容と論争

African Sanctusはその独創的な手法と強い物語性によって多くの聴衆や演奏者から称賛され、合唱曲・現代音楽のレパートリーとして広く知られるようになりました。一方で、後年にはフィールド録音の扱いや音楽の「流用」に関する倫理的な問題、現地の音楽文化の取り扱い方についての議論も起きています。録音対象者への許諾や報酬の問題、文化的コンテキストの伝達といった点が検討されるようになりました。

演奏上の留意点

  • テープと生演奏を同時に響かせるため、会場の音響調整とPA(音響設備)が必須です。テープ音源とのバランス調整に時間を要します。
  • 合唱・ソリスト・オーケストラは、録音素材とリズムやテンポを合わせるための緻密なリハーサルが必要です。指揮者と音響技術者の連携が成否を分けます。
  • 上演に際しては、録音素材の使用許諾や著作権に関する確認を事前に行うことが重要です。現代では文化的配慮の観点から、紹介や解説を伴うことが推奨されます。
  • スコアやパート譜は出版社を通じて入手可能なことが多く、上演権や楽譜の手配は早めに行うと良いでしょう。

関連情報・影響

African Sanctusは合唱音楽や現代音楽における「フィールドレコーディングの活用」という手法を広く知らしめ、以降の作曲家や実演家に影響を与えました。また、作品を通じて聴衆に異文化や宗教的テーマを問いかける点でも評価されています。プロデューサーやドキュメンタリストによる記録、商業録音や再演も複数行われており、コンサートレパートリーとして今も演奏され続けています。

以上は作品の概説と実演・受容に関する要点です。作品の背景や録音素材、上演方法についてさらに詳しく知りたい場合は、専門書やドキュメンタリー映像、指揮者・合唱団の解説資料を参照すると理解が深まります。