『ペトルーシュカ』は、4つのシーンから成るバレエ・バーレスク(舞台劇的なバレエ)です。物語の原案はアレクサンドル・ブノアが中心となってまとめ、音楽はイゴール・ストラヴィンスキーが作曲しました。振付はミシェル・フォキーヌが担当し、ブノアが舞台美術と衣装をデザインしました。作品は1911年6月13日にパリでセルゲイ・ディアギレフ率いるバレエ・リュスによって初演され、主役のペトルーシュカはニジンスキー、バレリーナはタマラ・カルサヴィーナが踊りました。ほかにアレクサンドル・オルロフがムーア、エンリコ・チェチェッティがシャルラタンを演じています。
あらすじ(概略)
物語は19世紀初頭のサンクトペテルブルクのシュロヴェタイド(謝肉祭/謝肉祭市)の見世物小屋を舞台に、3体の人形—ペトルーシュカ、ムーア(ムーア人)、バレリーナ—にまつわる嫉妬と悲劇を描きます。以下は場面ごとの流れです。
- 第1場:シュロヴェタイドの市(外景)
にぎやかな市で群衆や商人、見世物小屋が立ち並びます。観客(群衆)がペトルーシュカの人形芝居を見る導入場面です。音楽は民衆の喧騒や民謡的な要素を取り入れ、フェスティヴな雰囲気を作ります。 - 第2場:ペトルーシュカの部屋(内景)
ペトルーシュカは純粋で情熱的な人形。バレリーナに恋するが、彼の性格は激しく不器用で、悲しみや怒りを露わにします。ペトルーシュカの孤独と苦悩が描かれ、彼の内面を表す音楽的モチーフが登場します。 - 第3場:ムーアの部屋(内景)
豪奢なムーアの部屋で、ムーアはバレリーナを手に入れようとし、二人の関係はペトルーシュカを深く傷つけます。嫉妬が高まり、やがて決闘に発展し、を殺してしまいます(物語のクライマックス)。 - 第4場:再びシュロヴェタイドの市(夜)
夜の市に幽霊のように現れるペトルーシュカの亡霊。彼はシャルラタン(奇術師・見世物小屋の主人)に向かって最後の抗議をし、劇的な終焉を迎えます。
音楽と表現上の特徴
ストラヴィンスキーの音楽はリズムの鮮烈さ、管弦楽法の独創性、そして旋律とハーモニーの斬新な使い方で知られます。特に「ペトルーシュカ和音」と呼ばれる同時に異なる調の和音(例:C長調とF#長調の和音を重ねたような響き)は、当時としては前衛的で、登場人物の矛盾した感情や不安定さを音楽的に表現しています。民謡的素材、ロシアの舞曲、宗教曲の引用や、管楽器と打楽器の効果的な用法など、色彩感に富んだスコアが特徴です。
振付・美術・上演史
ミシェル・フォキーヌの振付は、劇的なパントマイム要素とクラシック・バレエの技巧を融合させ、登場人物の性格を身体で明確に示しました。アレクサンドル・ブノアの舞台美術と衣装はロシアの民衆文化や絵画的な色調を取り入れ、舞台全体が一つの絵画のように構築されています。初演以来、バレエ・リュスの代表作としてたびたび再演され、各時代における振付家や演出家による解釈で上演されてきました。今日ではオリジナルの趣向を尊重しつつ、現代的な解釈を加えた公演も多く見られます。
評価と影響
ペトルーシュカは音楽・舞踊・美術が一体となった総合芸術として高く評価され、20世紀のバレエと現代音楽に大きな影響を与えました。ストラヴィンスキーの作曲法はその後の作曲家にも多大な刺激を与え、バレエの物語的表現や舞台装置の可能性も拡げました。評論家グレース・ロバートは1949年に「初演から30年以上が経過した現在でも、その偉大さは揺るがない。音楽、振付、装飾の完璧な融合と、人間精神の普遍的な悲劇を扱う主題がこの作品の魅力を永続させている」と評しています。
現在でも世界各国のバレエ団で上演され続けており、録音・映像資料も豊富です。初演の舞台美術や振付の再現版、あるいは現代的な再解釈版など、さまざまな形で新しい観客に受け継がれています。













