脳脊髄液CSF)は、中枢神経系(脳と脊髄)を浴び、保護するものです。"Cerebro "は「脳」、"Spinal "は「脊髄」の略称、"Fluid "は「液体」のことです。

髄液は、脳の4つの脳室のそれぞれにある絨毛膜叢という血管のネットワークによって作られています。

髄液は、頭蓋骨に最も近い2層の髄膜(くも膜と硬膜)の間の空間であるくも膜下腔を流れています。髄液は脳室も満たし、脊髄の真ん中を流れます(中心管)。

成分と量・圧力の目安

髄液は通常無色透明で、成人の総量は約120~150 mL程度です。脳室の絨毛膜叢で作られる量は1日およそ400~600 mL(一般的に約500 mL/日)で、常に産生と吸収が平衡して一定量が保たれます。開頭や腰椎穿刺で測る開放圧(開放時圧)は、横臥位でおおむね70~180 mmH2O(約7–18 cmH2O)が正常範囲とされています。

循環経路(流れ)

  • 左右の側脳室 → モンロー孔(前脈絡叢) → 第三脳室
  • 第三脳室 → 中脳水道(シルビウス水道) → 第四脳室
  • 第四脳室 → マジェンディー孔・ルシュカ孔からくも膜下腔へ流出
  • くも膜下腔を満たした髄液はくも膜顆粒(アラチノイド顆粒)を介して硬膜静脈洞へ吸収され、静脈血へ戻ります。脊髄の中心管も一部を通ります。

主な働き(機能)

  • 物理的保護:外力から脳を浮かせ、衝撃を和らげるクッションの役割。
  • 浮力の付与:脳の実効重量を軽くし、脳底部への圧迫を減らします。
  • 化学的恒常性の維持:電解質や代謝産物を一定に保ち、ニューロンの活動環境を安定化。
  • 代謝廃棄物の除去:脳内で生成された老廃物や代謝産物の排出経路の一つ(近年は「グリンパティック系」として睡眠中の髄液と間質液の交換が注目されています)。
  • 輸送機能:ホルモンや栄養分、免疫関連物質を脳全体に運ぶ役割。

血液との境界(血液脳関門と血液髄液関門)

脳室の絨毛膜叢には血液―髄液関門(blood–CSF barrier)が存在し、毛細血管の上皮細胞同士のタイトジャンクションにより物質の選択的透過を制御します。これは血液脳関門(BBB)とは別の仕組みで、脳組織を有害物質から守る重要なバリアです。

臨床での評価(髄液検査と画像)

髄液の状態は腰椎穿刺(ルンバルパンクチャー)で得られる検体から評価されます。検査内容の代表例:

  • 外観:正常は無色透明。濁っていれば細菌性髄膜炎、黄色(キサントクロミア)は過去の出血や高ビリルビン、赤色は穿刺時の血液混入か出血性病変を示唆。
  • 細胞数:白血球(炎症の有無とタイプ)、赤血球(出血の評価)
  • 蛋白:通常は低め(成人で概ね15–45 mg/dL程度)。上昇は炎症・出血・腫瘍など。
  • 糖(グルコース):血糖に比べ低めで、髄膜炎では細菌性で著明に低下することがある(髄液/血漿グルコース比がしばしば参照される)。
  • 塗抹・培養・PCR:細菌・ウイルス・真菌の同定に重要。PCRはウイルス性髄膜炎の診断に有用。
  • 圧測定(開放圧):頭蓋内圧の評価に用いられる。

画像診断(CT、MRI、腰椎造影やシンチグラフィ)は、髄液の流れの評価や水頭症、出血、髄膜の病変、髄液漏などの検出に使われます。

代表的な関連疾患

  • 髄膜炎(細菌性、ウイルス性、結核性など):発熱、頭痛、項部硬直、意識障害を呈し、髄液検査で診断が確定することが多い。
  • 髄液漏(低髄液圧):外傷や手術、硬膜穿孔による髄液漏で起立性頭痛(起きると悪化する)をきたす。
  • 水頭症:髄液の産生と吸収の不均衡や流路閉塞により脳室が拡大する。閉塞性(交通性でない)と交通性(吸収障害など)に分かれる。治療にはシャント手術や内視鏡下手術がある。
  • 亜急性・慢性硬膜下血腫やくも膜下出血:血液が髄液中に混入し、特有の症状や髄液の見た目(キサントクロミア)を示す。
  • 特発性頭蓋内高血圧症(偽脳腫瘍):髄液圧が上昇し、頭痛や視力障害、乳頭腫脹を来す。
  • 正常圧水頭症(NPH):歩行障害、認知症、尿失禁の三徴(ウェッターリングの三徴)で示され、髄液の流体力学的異常が関与。

腰椎穿刺の注意点と合併症

  • 硬膜穿刺後頭痛(姿勢依存性頭痛)が比較的多い。水分補給、安静、必要ならばエピドゥラル血パッチなどで治療。
  • 出血傾向(抗凝固薬使用、血小板低下)のある患者では慎重に行う。
  • 頭蓋内圧亢進(大きな占拠病変や傍突起性病変など)が疑われる場合、穿刺で脳ヘルニアを引き起こす恐れがあるため、事前に頭部画像検査を行うなどの配慮が必要。

まとめ

髄液(CSF)は中枢神経系を化学的・物理的に保護し、代謝物や信号物質の運搬を担う重要な体液です。正常な流れと吸収のバランスが崩れると水頭症や頭蓋内圧異常、感染などの疾患が生じるため、髄液の性状や圧を評価することは神経疾患の診断・治療において非常に重要です。